4月27日から30日までの間、豪州政府の招聘プログラム(今回のテーマは「経済安全保障」)に参加して、シドニー及びキャンベラを訪問し、閣僚含むハイレベルな豪政府関係者及び有識者と意見交換や視察を行いました。我が国として参考となると思ったことも多々ありましたのでしばらくシリーズでご紹介したいと思います。
今回は、第2弾として、「豪州の先端技術研究のビジネス化のための民間の独立したベンチャーキャピタル」をご紹介します。ここに記載するのは、公にして差し支えない範囲のみになりますが、念のため企業名は伏せさせて頂きます。
1.豪発の先端技術研究をビジネスに繋げるスタートアップに対して資金提供し育てることを目的とした民間ベンチャー・キャピタル(VC)A社(仮名)の関係者と意見交換を行いました。彼が教えてくれたことは以下のとおりです。
豪も日本同様、研究開発までは良いものが沢山あるが、ビジネスに繋げるところが上手くいっていない。それを克服するための取り組みとのこと。日本にも官民ファンドは少なからずあるが、運営の仕方や有り様について大いに参考とすべきところがさあると感じた。特に、注目すべき点は、
① 豪政府からの資金はもらっているが、経営は豪政府は一切関わらない独立性のある民間VCという点(「政府とはarms length腕の長さぐらいの距離感」とのこと)。政府の仕事の受注は多い。また、研究開発のための投資は1ドル中4セント税金が還付されるというインセンティブもある。
② 投資する対象のスタートアップは豪州企業だが、当該スタートアップが対象とすべきマーケットは世界市場であって、豪国内市場のみを相手にするわけではない。なお、企業国籍は豪企業であっても社員が全員豪州人というわけではない。
③ 対象技術は、量子コンピュータ、グリーン、ロボティックスに絞っている。1スタートアップは12年位内のライフサイクルで、それまでに上場するか売るかする。
④ 本VCでスタートアップで成功した人が、続く人たちのロールモデルとなり、豪州に戻って本VCに再投資し、豪州の後輩アントレプレナー(スタートアップ)を応援するという良いエコシステムができている。
2.感想
日本も研究までは世界に先駆けたものがあるのに、それをビジネス化することは不得意で結局、経済的利益に転換できずマーケットは他国に持っていかれるという傾向にあります。オーストラリアも日本と似たような悩みがあることは知りませんでした。
日本にも先端分野を育てる目的の官民ファンドはあるわけですが、本件豪A社に比べて、政府が運営に口をはさむ度合いが大きすぎるし、一定期限内に上場するか売る、それができないものは失敗なので手を引くといった明確な方針がない、さらに今後のシリーズでも感じたところですが、「エコシステム」ができていることの重要性についても深く感じるところがありました。今後、日本の政策を考えていくときにも参考にしていきたいと思います