3年振りにワシントンDCに来ています。DCは、私にとっては、20代後半に2年間、外務省からの派遣でジョージタウン大学に留学していた懐かしい街でもあり、また、長らくの外交官生活の中でできた友人・知人のいる街でもあります。今回は、小野寺五典衆議院議員を団長に、富士山会合のアレンジで、米国防衛産業の視察や外交防衛関係者との意見交換です(関係者の皆様ありがとうございます)。コロナがあったことが嘘のように普通になりました。日本も5類以降となり空港でのワクチン接種確認などもなくなって正常化し、本当に良かったなと思います。

 

 さて、国会議員が海外渡航できる時期は限られています。ゴールデンウィークか夏休みなど会期外の時ですね。会期中はまず海外渡航は無理なのですが、日本の国会はちょっと厳し過ぎだと思います。これまでも、何度か世界的に有名なセミナーからの登壇のお誘いを断らざるを得ず、おそらく、他の議員達も同じように断っていると思うのですが、日本のプレゼンスや国際世論形成に日本の考えを発信する良い機会なのにもったいないなといつも思います。日本の国会の総理、外務大臣の拘束時間も国際的にみて長すぎです。先般のG20外相会合もですが、ましてや外務大臣は国会対応ではなく本来業務である外交を優先してもらえるように国会も改革していきたいと思います。

 

 明日朝はブルッキングズ研究所で私もパネリストとしてセッションがあります。オンラインで見られると思います(言語が英語限定ですが。。)。テーマは、「グローバルな外交における日米協力」。訪米前は全然時間がなかったので、準備を兼ねて、パネルからの質問事項に答える感じで書いてみます。

 

1.国際秩序の現状如何、外交はどのような役割を果たすことができるか。

 

 まず、国際秩序についていえば、ロシアによるウクライナ侵略、米中対立の深刻化など、以前、国際協調体制と呼んでいた国際秩序は後退を余儀なくされており、既に、パワーポリティクス、バランス・オブ・パワーの時代に変わってしまったという現実に直面している。危機のコントロールが必要な時代である。

 

 また、非常に単純化していえば、世界は、米欧日といった西欧諸国と中ロとそしてグローバルサウスと呼ばれるひとくくりには本来できない多様な考えを持ちつつ米中いずれにも与したくない3つのグループ(インド、トルコ、南ア、多くの東南アジア、アフリカ、中南米などの途上国)に分かれている。数でいえば、こうしたグローバルサウスと括られる国々が最多陣営である。

 

 もっとも、グローバスサウスと呼ばれる国々の考えも立ち位置もバラバラだ。たとえば、インドであろうとフィリピンであろうと、対中安全保障では日米との連携を期待しているが、インドはロシアとの安全保障上の関係を維持しているし、フィリピンは中国との経済関係も重視している。昨日、ハガティ上院議員(前駐日米国大使)は我々との面会の後、マルコス・フィリピン大統領と会う予定とのことで、丁度マルコス大統領が国会議員会館到着したところに出くわしたが、マルコス大統領は今次訪米でフィリピンの米軍基地復活を発表した。トルコもインドもロシアを「友好国」

 多くのASEAN諸国は、政治的経済的に一番重要だと思う国は米国ではなく中国であるが、一番信頼できる国は日本である。さらに、もっと言えば、中国との経済関係を重視する国とて、中国による経済的威圧や経済安全保障上の懸念を共有していないわけではなく、経済は中国一辺倒というわけでもない。それぞれの国が、自国の国益のために対中、対米関係の距離感を複雑に調整している。

 

2.対グローバルサウス外交の重要性

 要するに、現時点における世界は、米国であろうと中国であろうと、どの一国も圧倒的に世界をコントロールする力はなく、二極というより既に多極化に向かっていると言っていい世界におり、さらに、グローバルサウスの多くの国々はイシューやアジェンダによって連携の度合いや連携相手国は様々なグラデーションがあり、そのグラデーションも流動的な部分があるそういう世界にいる。これは、欧州でさえ例外ではなく、マクロン大統領が「台湾に自動的に関与しない」と本音を漏らしたとおり、欧州の中でも、自国の国益を考えたときに、対中政策において米国とどこまで同調するのかは所与のものと思うべきではない。

 

 このような流動的な状況だからこそ、外交こそ大きな役割を果たしうる。その際に、グローバルサウスと呼ばれる国々の動向が今後の世界情勢に死活的影響を与える。対グローバルサウス外交に日本政府は力を入れているが、ここは、米国も是非東南アジア諸国や太平洋島しょ国などへの積極的関与をしてもらいたいと思うし、日本も米国と連携できると思う(既に一定程度やっている)。日本は、軍に対してもインフラや機材を提供できる枠組みを新たに設けた。中国に対する安全保障上の脅威を共有する東南アジア諸国、たとえば、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどとの防衛協力において有効に活用できると期待している。

 

 そして、その際に、重要なコンセプトとなるのは、引き続き、「自由で開かれたインド太平洋」のアジェンダである。

 

3.対立する世界の中で、国連は役割を果たしうるのか。

 安保理常任理事国が隣国を侵略し、それに対し国連が有効な手立てを打てないことが明らかになっている今、国連の機能の限界は明らかである。それでは、役割がゼロかといえばそんなことはなく、国連は、国際世論形成(たとえば、経済制裁に賛同しないとしても、圧倒的多数の国がロシアの侵略を非難する総会決議を採択するとか)、そして、復興などには今でも役割を果たしているし今後も果たしていくことができる。世界のほぼ全ての国が加盟国である場所は未だ国連だけであり、その価値を無下にするわけにはいかない。他方で、従来以上に国連の機能は限定的であり、国連に過度な期待ができない状況となっている現実は受け入れる必要がある。

 

4.G7議長国として何をすべきか。

 日本はG7議長国として広島サミットを間近にしている。日本は議長国として、ロシアによるウクライナ侵略に対する確固たるメッセージを取りまとめ、侵略の終了とウクライナ復興のためにG7が率先して取り組む姿勢を引き出すべきであるし、また、日本にとっては、自由で開かれたインド太平洋のアジェンダの下、台湾海峡の平和と安定の維持のために、G7諸国の一層強いコミットメントを確認し発信することが最も重要である。

 

 日本の安全保障にとって、当面最も重要なことは、台湾有事の抑止であり、そのために、より多くの国に台湾有事の抑止への関与をさせることが必要だからである。

 この観点から、韓国も重要である。伊政権に変わって、日韓関係が正常化に向かい、日米韓安保連携をようやくまともに機能ささせることができる方向にあるからである。招待国である、インド、韓国を安全保障(含む、経済安全保障)において、日米との連携を強固にする機会とすることも重要なG7のテーマである。

 

 なお、私は、ロシアによるウクライナ侵略と中国の台湾統一はさほどの関係はないと思っている。ロシアが失敗しようとしまいと、中国が台湾統一をあきらめることはない。ロシアからよりよい方法を学ぶだけのことだろう。

 

 また、核兵器国による侵略において他国が行動しうる限界も見えたことから、核抑止はロシアや中国や北朝鮮といった国からの核の脅威を感じる全ての国にとって極めて重要になっている。韓国国内世論を見ても明らかであるが、自国で核保有をしたいというインセンティブは脅威を感じる国において上がっている。

 広島という場所でのG7である。究極の目標たる核軍縮の重要性を改めて訴えるとともに、核拡散を防ぎ、拡大抑止の信頼性を高める必要がある。

 

5.対中外交の重要性

 米国は太平洋を挟んでおり、また、一国で食料もエネルギーも自給自足可能な国であるが、日本はそうではない。中国は永遠に日本の隣国である。ロシアも北朝鮮もである。日本の平和と安全保障と繁栄にとって重要なのは、尖閣諸島や台湾海峡といった日本にとって地政学的に重要な地域を巡り、中国と紛争が起きないように抑止することである。そのためには、日本自身の防衛力の抜本的強化と同盟・同士国との連携に加え、中国とのハイレベルな直接の意思疎通が不可欠である。意図を見誤ること、立場も利害も衝突する部分があれど、不要な猜疑心にとらわれないことは極めて重要であるし、日本としては、中国とは安定的で建設的な関係が望ましい。たとえ、安全保障、経済安全保障においては、厳しく対応するとしても、そのことが即紛争に繋がらないような努力が必要である。

 抑止力強化と安心供与はセットであるべきだ。中国は疑っているが、台湾を独立させる意図は日本にも米国にもない。台湾にもない。あくまでも現状維持を望んでいる。ただし、軍事的に台湾を統一することには反対だということである。

 緊張関係が高まると益々意思疎通も難しくなるが、それでも、なお、意思疎通が必要である、外交当局は無論、特にハイレベル、軍当局間の間での意思疎通は死活的に重要である。