0443 Byres Road
思いつきで行く旅行こそが、旅の醍醐味である。
しかしながら初めてグラスゴーに行ったのは、元々は思いつきだったのは確かだけど、そこに行くまでは当然かのようにあらかじめ色々と調べていた。せっかく行くからにはと思うと、さすがに色々なことを考えるものである。しかしさほど有益な情報を得られ無いまま、結局はえいやと行った形になった。
ロンドンからのブリットレイルには7時間くらい乗ってたんじゃなかったか。グラスゴーセントラル駅に着いた時は夜の10時を過ぎていた。終電が近い時刻の上野駅みたく、駅はどんよりとしていた。歩いてすぐのところに安いホテルを見つけて、もういいや今日はここで、と思って訪ねてみたら、現れたフロントのおじさんに死相が出ていたので(もちろんここは比喩的な表現なのだが)、オウアイムソウリーと言って思わず小走りで逃げてきてしまった。漠然とながら憧れを感じていた街、グラスゴーに着いてからわずか数分の間に、私は昔見た映画「真夜中のカーボーイ」の1シーンの記憶を重ねていた。
結局タクシーを捕まえ、カタコトで「Byres Roadの近くのB&Bへ連れて行ってください」と無茶苦茶かつ一方的な事を言って、黒い車体に乗り込んだ。ハンドルを右に切り、駅を背にして車は直線的な道をびゅんびゅん飛ばしていった。不安になって来るくらいのスピードで走っていく後方座席で過ごした時間はわずか数分だったはずだが、時間が経つほど不安感も加速していく。不意にタクシーは止まり、ここだよ、と運転手が指をさすとそこにはスミス・ホテルと地味に書いてあった。迷うことなく私はそこに泊まることにした。
狭いロビーの壁には古ぼけた周辺地図が貼ってあり、今自分がいるところはどこなのかを探してみるのだが全然わからない。従業員らしき人を呼んで、今ここにいるのはどこですかと訪ねてみるとここだよ、と瞬時に指をさす。そこはByres Roadに面しているわけではなかった。そこに行くまでどれ位の距離があるのか、まったくわからなかったが、とにかくそこへ歩いて行ってみることにした。
スコットランドの夜は意外と早いようで、殆どのお店は既に閉まっていた。カレー屋さんが開いていたので、入ってみることにした。ハロー。テイク・アウェイ(そう、イギリスではテイクアウトって言わないんだぜ、豆知識な)で私はタンドリーチキンを買った。
ホテルの部屋に戻る途中に、空が澄んでいる事に気がついた。星がたくさん出ている。初めてグラスゴーに行った日の夜はそんなふうだった。もう10年近く前の話。
