0266 中野の丸井の思い出
当時、私と従兄弟はとても仲が良かった。家は離れていたけれど、1ヶ月に一回は遊びに行ったり、来てたりしていた。私はその日をいつも楽しみにしていたと思う。
いつだったかその叔父....私の父の兄にあたる...、が離婚した。突然、従兄弟の母親はいなくなった。当時、私が6歳くらいの頃の話だ。聞いた話によると、母親は離婚した後、すぐに別の男と再婚したという。子供にはきつい話だ。
ある日、その母親がなぜかうちを訪ねて来た。私が8歳くらいの頃だったと思う。うちのオヤジに話があるという。要約すると、最後にもう一度だけ息子達に会いたい、ということらしかった。叔父には内緒で。
今思えば、うちのオヤジも困ったと思う。が結局協力することにしたみたいだ。次の日曜日、何も知らない従兄弟がうちに遊びに来た。
気まずい空気が流れた。その空気がどのようなものであるかは、おそらく今の私よりも当時小学校低学年だった私の方が敏感に読めていたと思う。従兄弟の兄ちゃんの方(私より2歳上だ)は「なんでこんなことするんだよ」と誰にともなく(いや、間違いなくうちのオヤジに対してだ)怒鳴りつけた。
まだまだぎこちなかった私たちは、うちから一番近かったデパートに行った。中野の丸井である。元母親は二人の元息子に上限なく好きなものを買ってあげるという。お兄ちゃんの方は最初は拒んでいたが、しばらくすると「ローリングスのグローブが欲しい」と言い出した。それは当時、彼が本当に欲しがっていたものだということを私は知っていた。
そして私たちは5階にあったレストランに入った。会話などはずむわけはなかった。食事を済ませると元母親はそこを去っていった。今のところ、これが最後の出会いだったんじゃないかなと思う。たぶん。
中野の丸井のレストラン・フロアは当時から独特な匂いがしていた。その後、私は何度かそこに行く機会があったのだが、いつもそこはあの匂いがした。今もきっと同じ匂いがしているだろうと思う。あの日の出来事を思い出さないわけにはいかない匂いである。
丸井中野本店は8月26日(日)に閉店するそうだ。私は思う。オヤジはやっぱり余計なことしちゃっていたのかな。今でも答えが出ない。
