今回の消費増税で先送りされた社会保障財源の確保~税率引上げは10年間、本当にないのか<その1> | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

10月1日に消費税率が上がったが、税率10%の実感はいかがであろうか。

軽減税率にポイント制…、実質的に税率は10%から8、6、5、3%と5段階…、複雑さによる現場での混乱が報道されているが、逆に、10%は計算しやすく、分かりやすくなったとの声も聞かれる。税率20%前後の欧州での生活経験のある人からは、8でも10でも関係ない、それより日本は生活必需品の物価そのものが高く、しかも上がっている、こっちのほうが問題だ、欧州では肉など食品は内容量も多いし…との声も。

10月4日から始まった臨時国会では、牛肉関税なども関係する日米貿易協定も審議されるが、やはり自由貿易こそが消費者の利益ということであろうか。

 

●前回の消費増税とはだいぶ様子が異なる今回の増税

多くの増税反対論者が強調しているのが景気への懸念だが、今回は増税の7割が家計に還元され、財政再建にはあまり寄与しない。政府の各種の施策で景気へのマイナスは数字上もエコノミストの予測でも、懸念する事態にはならないとの見方が多いようだ。駆け込み需要も前回の増税時ほどではなく、その反動減も小さいということであろう。

少なくとも、今回の消費税率引上げは、前回2014年4月に5%から8%に引き上げたときとはだいぶ様子が異なる。

まず、前回の増税では、家計への還元は2割のみだった。これは2012年の三党合意「社会保障と税の一体改革」のスキームでは、増税分の8割が、従来の社会保障の財源を、将来世代へのツケ回し(赤字国債)から現在の世代の負担へと付け替えることに充てられることとされていたことによるものだ。この分は当然、現在の家計の負担を純増させるので、景気にとってマイナスとなる部分である。このままでは景気重視の安倍総理が消費増税を2回延期するのもやむを得なかった面がある。恐らく、三党合意とはいえ、民主党政権下で決められた枠組みは、もともと、安倍総理には違和感があったのであろう。

これに対し、増税をしても、それが社会保障給付を新たに増やすことに充てられれば、それは国民の誰かから誰かにおカネが移転するものであるため、国全体での差し引きでみて、家計全体の負担は増えない。それは前回は増税分の2割だった。安倍総理からすれば、景気へのマイナス部分を極力減らして還元分を大きくすることで、増税がアベノミクスの足を引っ張らないよう最大限の工夫をしての増税容認だったのが、今回の増税だった。

 

●実は財政再建にあまり寄与しない今回の消費増税

今回、増税分の半分が財政再建に回るなどと早速、間違った報道がされているが、数字をよくみてみよう。まず、政府が今年度予算編成時に公表した数字では、今回の消費増税による国と地方併せた増収額5.7兆円から軽減税率分1.1兆円を差し引き、それにタバコ増税分0.6兆円を足した5.2兆円を増税額としており、そこから国民の受益増3.2兆円を差し引いた2.0兆円が家計の負担増だと計算している。

ここでは、軽減税率の財源として昨年度に実施したタバコ増税を計算に入れているが、今回の増税そのもので増える消費税収がどれだけ増え、それがどこに回るかという観点から見直すと、下図のようになる。

つまり、今回の消費増税で毎年度、国と地方に入る消費税収は4.6兆円増えるが、うち新たな給付の増大や今回からの教育無償化などで3.2兆円が家計に還元される。残り1.4兆円の増収によって、従来の社会保障の財源が借金などから消費税へと置き換えられることになるが、消費税収は全体の2割が地方消費税であり、残りのうち約2割が地方交付税交付金である。両者が地方自治体の社会保障財源に回るため、この1.4兆円については、そのうち国の財源になるのは1兆円に満たない。つまり、社会保障で膨らんできた国の赤字国債発行額は1兆円も減らない計算になるのである。

今年度予算では赤字国債の新規発行額は約26兆円(このほかに建設国債が約6兆円)にのぼる。毎年度の赤字国債発行額は、そこから1兆円弱しか減らず、財政再建にはほとんど効果がないことになる。やはり、安倍政権は財政よりもアベノミクスということか。

 

●政府が講じる景気への影響極小化対策

このように、家計の純負担増が少ないことに加え、今回は下図のように、政府は様々な対策を講じ、景気への影響を極小化しようとしている。

例えば、前回の増税では4月1日に一斉に3%価格が上がったことが駆け込み需要と反動減をきつくしたが、そもそも価格設定は事業者にとって最高の経営判断の領域に属するものだ。消費増税というコスト増分をどこまで合理化で飲み込み、いつ、どこまで価格に転嫁するか、これが自由であってこその資本主義経済というものであろう。

今回は、何事も一斉一律方式で自分の首を締めてきた日本らしい社会主義から一歩、脱却する措置も講じられた。それが上図の①売り手側への対応(柔軟な価格設定)の意味である。その他、金額の張る耐久消費財の購入支援からポイント還元、プレミアム付商品券など、きめこまやかな措置のメニューが並んでいる。

消費税の家計への還元の中身や、これら措置も含めた財政対策の数字を示したのが下図である。

 ただ、今回の増税で見落としてはならないのは、社会の高齢化で増大する一方の社会保障給付の財源問題の解決は、結局、またも先送りされたことである。せっかくの増税も、総理が一昨年の総選挙で若年層の支持を取り込むために公約した教育無償化などが新たな歳出増として加わったことで、増収額4.6兆円のうち3.2兆円、つまり7割が還元されてしまうことになる。

 結局、今回の増税は、①新たな給付の拡大を現世代の負担で賄い、②教育機会の公平化と、③少子化対策の充実を図ったという性格のものとなった。まさに自民党が先般の参院選でもアピールしていたように、10月1日は新たな負担が増える日というより、新たな「給付増が始まる日」になったわけである。

 しかし、そもそも人口構成が強い逆ピラミッドの日本で、世界一の超高齢社会の財源を若者など現役世代の保険料アップや次世代への付け回しで賄うのは土台無理というのが、消費増税の目的であった。保険料で足りない分は消費税全額を充てても半分ぐらい。あとは国債の60年償還ルールのもとで、60年かけて子や孫の世代におんぶに抱っこ。経済成長で賄うといっても、名目で4%以上の経済成長が半永久的に続かなければ誰が計算しても算数が合わない。消費増税反対派とて、デフレ時の増税に反対しているのであり、長期的には増税を容認している論者が大半である。

しかし、安倍総理は在任中の消費税率の更なる引上げを否定しただけでなく、参院選前の記者会見でも臨時国会での答弁でも「今後10年は税率上げは必要ない」と述べている。

本当に10年間、消費税率は引き上げなくても社会保障財源は大丈夫なのか、次回<その2>で論考を進めてみたい。

 

【参考】

●チャンネル桜ビデオレター

「消費増税は財政再建のためじゃない?財務省の説明を翻訳すると…」9月24日配信↓