~4月11日衆院内閣委員会一般質疑で甘利、菅両大臣と議論~
甘利経済財政担当大臣に対する松田まなぶの質問のポイント
●10%までの消費税率引上げ(来年10月)の判断基準について
・内閣委員会の前回の一般質疑で、97年4月の消費税引上げが、その後のデフレの原因ではなかったことにつき、甘利大臣は私と同じ認識であると答弁。
こちらのⅤをご参照ください。
・今後の論点は、来年10月のさらなる2%税率アップをどうするか。予算委員会では、安倍総理も甘利大臣も、今回の消費税率引上げ後の経済情勢に基づいて判断するとしています。
(問)2015年10月にさらに消費税率2%を引き上げるかどうかを判断するのは本年末とされているが、その時点で把握されている経済指標は本年7~9月期までのGDP統計であり、引き上げ時点よりも1年以上も前の経済指標によって判断が左右されるべきではないのではないか。
〇私が甘利大臣にこの論点をぶつけた背景には、次の論点があります。
今回の3%引上げについては、その最終決定の直前に当たる時期に発表された2013年4-6月期のGDP速報で、日本の実質経済成長率が年率で2.6%という、好調な数字が示されたことを受けたものでした。それでも、せっかくデフレ脱却に向かい始めている日本経済の腰を折ると、予定通りの引上げに反対する意見が各方面から出て、国を分けての大議論になりました。しかし、私は当時も、世の賛成論反対論のいずれもが、少しピントがずれていると思っていました。少し、整理してみたいと思います。
まず、「経済状況を見極めて」と言っても、その最終判断はほぼ1年前の経済指標に基づいてなされるわけです。これは統計の遅れと実務的な準備の期間を考えると、やむを得ないのですが、今回の14年4月からの引上げ判断は、13年4-6月期のGDP速報に基づいていたわけです。その後、13年7-9月期のGDP第二次速報が増税最終決定後の12月に発表されましたが、そこでは、年率の実質経済成長率は4-6月期は2.6%から3.6%へと上方修正された一方で、7-9月期は1.1%と伸び率は大幅に低下、しかも、好調だった個人消費は息切れし、成長を支えていたのは公共投資と、消費増税前の駆け込み需要による住宅投資でした。
速報時点の4-6月期2.6%という数字では消費増税の上でまだ不安があるとして、当時、増税先送りを主張していたエコノミストは、これを見てどう判断したでしょうか。3.6%なら賛成だったと言うかもしれません。しかし、その後の7-9月期の数字が悪いからと反対したところで、すでに増税は決定済みです。
つまり、1年後の経済状況を足元の経済指標で確実に見通せるわけではなく、それで消費増税の是非を議論しても大きな意味はありません。
このことは2015年10月からの10%への引上げの際に、もっと重要な論点になるでしょう。それは次年度予算編成の関係から2014年末までに判断しなければならないからです。その時に出ている経済指標は2014年7-9月期のGDP速報までです。消費税引上げ予定の翌年10月の一年以上も前の経済指標しか、判断材料はありません。
法律に規定された、経済状況を見極めて、というのは、足元で例えばリーマンショックのような急激な経済の落ち込みがあって、1年後もかなりの確度で経済の低迷が続いていることが予想されるといった、相当ネガティブな状況を言うのであって、そうでもない限り、予定通り引き上げるという趣旨だと考えるべきでしょう。
⇒この点も甘利大臣は認めざるを得ませんでしたが、安倍総理が相当、慎重であるということでした。
〇ドイツの2007年の事例をみてみましょう。
ドイツでも、今回の日本の消費税率引上げと同じ3%の付加価値税率引上げが2007年に行われました。同国では1960年代の付加価値税(日本の消費税に相当)の導入以来、1%ずつの引上げが繰り返されてきましたが、2007年には、日本のような社会保障財源のためというよりも、財政赤字そのものを減らすために、税率が16%から現在の19%に引き上げられたものです。メルケル政権が05年に誕生した当時のドイツは、4年連続でマーストリヒト条約における財政赤字基準(一般政府の財政赤字対GDP比3%以内に抑制など)を超過しており、財政再建が喫緊の課題でした。
その際の付加価値税率3%引上げは、所得税の増税(最高税率引上げ)と同時に実施された措置でしたが、実際に、ドイツの実質経済成長率は、付加価値税率が1月から3%引上げられた2007年は、前年に続き3%台の高成長を示し、付加価値税収も大幅に増加しました。
ドイツ経済が落ち込んだのは、そのあとです。08年はゼロ%台、そして09年はマイナス5%台へと成長率は低下しました。ただ、これがリーマンショックの頃の世界経済の状況によるものであることは言うまでもありません。この点でも、日本で97年に消費税率を引き上げたあと、いったん景気は巡航速度を回復し、その後、消費税とは別の要因で経済が落ち込んだ流れと似ているところがあります。マクロ経済の大きな流れを、消費税率の引上げの影響と混同するのは論理的ではありません。
〇もし、消費税率を引き上げる度にデフレ経済に陥るのであれば、付加価値税率が20%前後の欧州経済はとうの昔に破綻しているはずです。
●本来は国民負担を増大させない性格である消費増税の本当の負担とは何か。
多くの方が気づいていませんが、社会保障給付(年金、医療給付、介護など)に充てられる目的税とは、国民から国民へのおカネの移転という性格のものです。国民の誰かが負担した税金がそのまま、社会保障給付を受ける国民への社会保障サービスとして国民に戻ってきます。本質的に政府の懐に入るおカネではありません。政府は消費税については、国民の間のおカネの移転を仲介する役割をしているに過ぎないことになります。
私たちが「国民」と言う場合、そこには将来世代という国民も存在するということを忘れがちです。国民を、高齢世代、現役世代、将来世代に分けて考えると、国民から国民へのおカネの移転である消費税を増税しても、それは世代間の負担の配分を変えるだけのことで、全体としての国民負担は一定です。増税しなければ、赤字国債に依存する分が多くなり、金利負担が増えますから、むしろ、全体としての国民負担は増大します。
これは、消費税率を引き上げない場合に何が起こるかを考えてみれば分かります。仮に高齢世代の負担を一定(現在程度の社会保障水準を維持)とすると、現役世代の社会保険料負担の増大と、赤字国債の累増による将来世代の負担の増大が起こります。
〇私の質問時に委員会で配布した(資料1)が、「消費税とは国民から国民へのおカネの移転である」、「消費増税とは社会保障財源の世代間での負担調整であり、負担の世代間の公平化である」ということを示しています。
「資料1」(クリックして拡大)
・社会保障に必要な給付が増えるに応じて、その分だけ消費増税をする限り、それは現在生きている世代の国民の間で、社会保障を理由に動くおカネの量が増えるだけのことですから、全体では負担増にはなりません。
・しかし、そうした消費増税の先送りを続け、将来世代へのツケ回しを増やし続けてきたとすれば、いずれしなければならなくなる消費増税の際に、増税分のうち、将来世代へのツケ回しを減らす分が、いま生きている世代にとっては負担増になります。
・つまり、消費増税の負担とは、経済的にみれば、それによって毎年度の赤字国債の発行額が減る分であるということになります。
(問2)実質的な社会保障目的税である消費増税の負担とは、現在の世代にとっては、将来世代に対する付け回しを減らす分であり、国民に負担をお願いする以上、その金額を明らかにすべきではないか。国については、今回の消費税率3%引き上げが特例公債の発行減に寄与する金額(2014年度ベース、平年度ベース)、及び同じく10%まで引き上げられた際の金額如何。
⇒甘利大臣は、「平成26年度予算では、後代へのツケ回しの軽減に該当する部分は、国・地方併せて、1.3兆円程度」、これに、基礎年金の国庫負担を2分の1まで引き上げた分の財源に充てる消費税収の分(2.95兆円とされています)も、ツケ回しを減らす分といえる、旨を答弁しました。
⇒これは、大変重要な答弁です。今年度の消費増税の真の経済的負担額が初めて明らかにされたからです。この国会でのやり取りは全く報道されませんでしたが、メディアは何をやっているのでしょう。国民にとって重大なことが明らかにされたにも関わらず。
⇒つまり、1.3+2.95=4.25兆円が国民負担増だということになります。
今回の3%引上げによる消費税収の増加は、今年度は国・地方併せて5.1兆円です。消費増税対策としての経済対策5.5兆円の財政出動(平成25年度補正予算)は、これをカバーする規模だったわけですが、実際には、すぐには使い切れない分を1兆円以上、基金に積むなど、様々なムダが指摘されています。4.25兆円という数字をみても、この補正予算は少なくとも1兆円以上は過大だったことになります。
5.5兆円の対策は、平成25年度の税収増を活用したものでした。せっかくの税収増です。これを全額、バラマキに使うのではなく、少なくともその一部は国債発行残高の減少に回して、年々の国債利払い費や元本償還負担を軽減すべきでものでした。
こうしたことも、今回の国会論議で根拠をもって明らかになったわけです。
〇そもそも、これまで必要に応じて消費増税がなされてきていれば、今回、4.25兆円の負担増をしなくて済んだわけです。その負担を打ち消すために経済対策を行い、結果として年々の国債償還負担を減らすことに回せなかったことも併せてみれば、これこそが「増税先送りがもたらした負担増」といえます。
〇甘利大臣には、10%への引上げ時点で、平年度分で、この国民負担増がいくらになるかの数字を出すように迫りました。答は次です。
・増収分が満年度化する平成29年度で後代へのツケ回しの軽減分では7.3兆円
・それ以外に、基礎年金の部分が3.2兆円
⇒つまり、私たちには今回、1年半の間に行われる消費税率5%引上げで、10.5兆円の負担増が求められることになったわけです。少しずつ引き上げられていれば、こんな負担を1年半の間に押し付けられる事態にはならなかった。
〇1年半で5%アップはきついです。そこに追い込まれたことも、先送りによる負担増です。増税額と同額、同時に財政支出を増やせば、乗数は1です。つまり、増税額分だけ経済にもプラスだというのがマクロ経済学の教えるところです。ドイツでも毎年1%ずつ引き上げていた時期がありました。
●今後毎年1%ずつの消費税率引上げをプログラム化することについて
(問3)今後長期的に消費税率をほぼ毎年度1%ずつ引き上げることをプログラム化すれば、増税の経済への悪影響は回避されるとの見方について、大臣の所見如何。
〇この質問の背景には、次の論点があります。
理屈からいえば、5年であれ10年であれ、一定期間にわたって毎年度1%ずつの消費税率を引上げが明確に決定されていたほうが、経済に与えるマイナスインパクトが低下し、むしろデフレ脱却に資することになります。なぜなら、それは消費者にとっては毎年度、おカネの価値が1%ずつ低下することを意味するものであり、これはすなわち人々が1%分のインフレ予想を消費増税によって合理的に形成することになるからです。
「駆け込み需要」からもわかるように、税率引上げの期間の間、それは明らかに消費支出を前倒しで喚起し続ける効果があります。
また、供給サイドでも、この一定期間において、消費税率引上げの影響を飲み込むだけの生産性上昇運動を展開することが考えられます。業界ごとに労使一丸となって生産性上昇率の引上げ目標を設定し、例えば、毎年の生産性上昇率が標準ケースに比べて1%ポイントずつ高いものとなることを目指すことが考えられます。
事業者にとっては毎年度税率が変わるのでは経理が大変だ、小売店では毎年、値札を取り替えなければならなくなるなど、実務的な負担の問題が指摘されます。しかし、将来の計画がはっきりしていれば、実際には十分に対応可能だとおっしゃる実業家も多いようです。将来年次にわたって税率引上げを経理のソフトに組み込んでしまう手もあるでしょう。
⇒甘利大臣は実務上大変ではないかと答弁していましたが、欧州でできたことがなぜ日本にはできないのか。やはり、インボイスなど消費税に本来必要なインフラを日本もそろそろ整えなければならないでしょう。
●何のための消費増税かを国民が理解できるよう社会保障勘定創設を。
・残念ながら、消費税収が全額、社会保障に充てられているということを知らなかった国民が大半です。
・私はかねてから、国の予算の一般会計から社会保障費を切り出し、その財源が消費税であり、それでは不足する分が赤字国債として次の世代や私たちの将来にツケ回されているという姿を、国民に分かりやすく示すことが必要だと唱えてきました。受益と負担との関係が世代間で公平になっているかが分かるようにするためです。
・昨年の通常国会では私は財務金融委員会に属していましたから、麻生財務大臣にこの点を強く質していました。その甲斐があってか、今年度の政府予算から、財務省は説明資料として、(資料2)の表を公表するようになりました。予算委員会でも申し上げましたが、私はこれを、改革への第一歩として評価しています。これが、国・地方併せた版として作成されればもっと良いと思います。
「資料2」(クリックして拡大)
(問4)国の一般会計から、消費税とその不足分についての特例公債を歳入とし、社会保障費を歳出とする社会保障勘定のようなものを切り出して示すことにより、社会保障の受益と負担との関係を明示する必要があるのではないか。これは地方についても同様ではないか。経済財政担当大臣としての所見を問う。
●財政を「見える化」して国民の手に、そのための公会計改革。
・現金主義、単式会計のどんぶり勘定だから、財政は国民には見えにくい。財政は中央官僚にお任せください、というのでは、開発途上国型の財政運営です。成熟社会の日本は。国民一人一人が納得して財政の選択(受益と負担や効果の選択)ができるような財政の仕組みを運営する時代になつているはずです。
・それが、発生主義、複式会計、複数年度で予算を策定する方式です。
・財務省が非現実的である等の理由で反対していますが、英国はちゃんと、そのような方式で財政運営しています。
・それが(資料3)です。国民経済計算ベースで複数年度予算を閣議決定し、しかもそれは、資本的支出と経常的支出などに分けられ、それに基づいて毎年度の予算が発生主義ベースで編成されています。
「資料3」(クリックして拡大)
(問5)経済財政政策の司令塔とされる内閣府は、その政策運営のベースとなる公会計の改革について、英国のようなSNAベースによる複数年度予算や、発生主義ベースの予算策定のようなものを提唱すべき立場にあるのではないか。大臣の所見を問う。
・かつて、財政を預かる役所は大蔵省、大臣は大蔵大臣だけでしたが、今は、経済財政担当大臣と内閣府も、財務大臣や財務省とともに国の財政を預かっています。国民経済的な立場から財政をみる大臣と役所ができている以上、このような改革を進めるぐらいのことをしなければ、その存在意義はなく、財政は財務大臣に一元化したほうがいいということになってしまうでしょう。
菅義偉・内閣官房長官に対する松田まなぶの質問のポイント
〇憲法解釈権は政府よりも最高裁が上位最高の位置にあり、その砂川判決によれば、日本は集団的自衛権の行使が憲法上できないと解釈することのほうに無理がある。先般の官房長官答弁は、今後、集団的自衛権を検討するに際し、砂川判決があることについて、「今までさまざまな問題がある中で整理がされていなかった…そうした問題について、…方向性を見出すことが大事だ」
(問)先般の官房長官答弁は、今後、集団的自衛権を検討するに際し、砂川判決も念頭において検討を進める旨を示唆しており、報道によれば、法制懇も同判決に基づいて検討するということであるが、そのような理解でよいか。砂川判決は個別的自衛権について述べたものとの見方があるが、政府はどのように解釈しているのか。
(問)集団的自衛権に係るこれまでの政府解釈が国会審議で積み重ねられてきたものである以上、それを変更する実質的な議論の場は国会であるべきであり、解釈変更の閣議決定を先に行い、のちに国会で議論するのではなく、閣議決定の前に国会で十分な議論を行い、それをふまえて閣議決定をすべきものなのではないか。