松田まなぶ 欧州出張報告① | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

第1回 スウェーデン~高度な個人番号管理で公正な安心社会の国~

 以前、速報としてお知らせしましたように、私は8月21日~30日の8泊10日にわたり、衆院内閣委員会の理事として、平井委員長を団長とする議員海外視察に参加し、スウェーデン、エストニア共和国、デンマーク、ドイツの4つの欧州諸国を訪問しました。欧州視察の目的は、先般の通常国会で内閣委員会が30時間かけて成立させたマイナンバー制度に関して個人番号が徹底した国の状況を把握することに加え、IT立国では最先進国とされるエストニアの状況、サイバー攻撃対策、デンマークの社会保障や遺伝子情報管理、メディコンバレーの状況、ドイツの公務員制度やITを活用した労働市場対策なども調べることでしたが、考えさせられることが多い視察でした。国会議員の海外視察といえば、あたかも遊びにでかけているかの如く一部メディアから叩かれているようですが、少なくともこの欧州出張に関していえば、実際はまったく違います。政府機関や国会関係者、企業などを始め、連日、訪問先のスケジュールがびっしりとつまり、研修旅行かと思わせるような多数のレクチャーや意見交換、議論や交流など、内容豊富で、今後の政策立案や国会論戦の上で驚くほど有益な材料が集まり、これからの日本を考える上でも得るところが予想以上に多い出張となりました。
 参加者は、衆議院議員は6人で、平井卓也・内閣委員長(自民党)のほか、田中良生議員(自民党)、若井康彦議員(民主党)、高木美智代議員(公明党)、大熊利昭議員(みんなの党)、そして日本維新の会からは私、松田学という、いずれも内閣委員会の理事でした。同行者は6人で、衆議院委員部からの松本参事に加え、政府からマイナンバー制度の政府での事実上の中心人物である向井治紀・内閣審議官(社会保障改革担当)のほか、内閣官房のIT担当幹部や警察庁からも参加しました。ちなみに向井審議官は大蔵省の私の同期で、このような形で海外の旅を一緒にすることになるとは想像していませんでした。
 以下、何回かにわたり、今後の日本の再設計の上で参考になると思われる点を中心に、今回の出張に関する簡単なご報告をさせていただきます。

●個人番号制度を所管して個人情報を徹底活用しているスウェーデン国税庁
 今回第1回はスウェーデンのご報告です。北欧型福祉国家のもとで経済活性化を果たしてきたこの国は、かねてより徹底した個人番号管理で有名な国です。かつては800万人と言われた人口も、各国からの移民の受け入れで最近では900万人台後半と、1千万人近くを臨むところまで増大を続けています。同国で最も参考になったのは、国税庁でした。
 日本では個人番号制度への抵抗が強く、その導入には、かつてのグリーンカード制度以来、長い年月を要しています。ようやく国会でマイナンバー法案が成立しましたが、それはあくまで、税と社会保険と防災という3つの目的に限定されています。3年後までに見直しをすることになっていますが、医療情報や預金などの資産等へと対象を拡大するかどうかは、今後の検討課題で、いわば、小さく産んで大きく育てるという考え方になっています。個人情報保護や情報漏洩対策など、詰めるべき点が多々あるなど慎重論も多く、どこまで拡張されるかは予断を許しません。
 私自身は、次の社会を「組み立てる改革」を推進する立場から、個人番号制を重要な社会インフラとして、まずはマイナンバー制度を医療や福祉を始めとする各方面のシステムとの接続性を高めながら拡張していくことを国会審議でも主張してきましたし、この場を借りて発信もしてまいりました。
 スウェーデンでは、これが究極まで進んだ姿が確認されました。中核は、同国の財務省のもとに置かれた国税庁です。日本の国税庁も財務本省に対する独立性が強い機関ですが、同国の国税庁もそうです。実は、この国税庁ですが、税に限らず、およそ個人番号制度の全般にわたってその運営に預かっており、税の適正公平な課税を本当に実現するためには、課税当局が中心となってここまでシステマティックな管理をする必要があるのかと、認識を新たにした次第です。
 まず、すべてのスウェーデン国民は生まれてから3時間以内に、生まれた病院から国税庁に住民登録されます。名前の登録は3か月以内だそうです。国税庁に登録された情報が、例えば、市役所や社会保険局に提供されて、児童手当が支給されたり、中央統計局に提供されて人口動態の把握に使われたりしていきます。
 普通、住民登録といえば地方自治体ですが、この国では登録先は国税庁です。その国税庁の業務は、税の賦課徴収、住民登録、不動産関係、脱税調査、番号制に伴うIDカードの発行などです。人員の84%が税の賦課徴収に充てられており、社会保険料の徴収もこれと一体で行われています。国税庁に集中された個人情報は、政府などの他の機関、例えば、統計関係、移民局、警察、国防や災害救助、選挙、そして、地方自治体や教会、民間企業などに幅広く提供、活用されています。
 驚いたのは、こうした個人情報が商業目的で民間企業にも広く提供されていることです。例えば、赤ちゃんが生まれたという登録情報を民間企業が活用して、おむつの販売に役立てているといったことが広く行われているようです。個人情報を保護することよりも、子供の成長過程に応じて必要なグッズの情報が適時に各人に届くという利便性のほうが、この社会では優先されているようです。どの利用目的でどのような業界に国税庁が情報提供をするかは、第三者委員会が判定していますが、そうした個人情報を悪用することに対してどのような対策を講じているのかという我々からの質問を前に、担当官は、なぜそのような質問をするのかわからない様子で、返答に窮していました。
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「今回視察の6人の議員。スウェーデン国税庁前にて。」

●国民の政府に対する信頼を基礎に個人番号制度がもたらす利便性を享受
 どうも、この国では、政府に対する国民の信頼度が、日本とは大きく異なるようです。これは、歴史を通じて侵略したりされたりを繰り返してきた国々と、一度も本当の意味で外国勢に侵略されたことのない日本の国民との国家意識の違いなのかもしれません。国家には国民の生命と財産をしっかりと守ってほしいと考えるよりも前に、「私」の領域に政府が介入することへの警戒感が異常に強い日本は、その意味でも平和な国なのでしょう。
 もう一つ、スウェーデンではかねてから、住民登録が教会に対してなされてきたという歴史的な背景もあるようです。教会には洗礼や死亡を通じて個人情報が集中してきました。17世紀末に、教区ごとに異なっていた登録様式を全国的に統一しようという動きが始まり、1947年には国のレベルで個人番号制が導入、その後、コンピュータ管理が進み、教会から国税庁(税務署)へと管理が引き継がれたようです。個人情報が何らかの公的な存在によって把握されているという状況に対するスウェーデン国民の習熟度が歴史的に高いといえるでしょう。国民の抵抗感が強い日本とは状況が異なる理由の一つだと思います。
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「国税庁内で担当官と。」

●資産の捕捉は日本にとっても重要課題
 日本では個人資産の国税当局による捕捉の度合いが低いのが大きな問題ですが、スウェーデンでは、預金、金融取引から不動産取引まで個人番号が必要ですので、国税庁による資産の把握は相当程度のレベルに達しています。ここまで捕捉されていれば脱税など起こらないのではないかと私から質問いたしましたところ、やはり、課題は海外資産だということでした。ちなみに、この国では現金取引はほとんどなく、現金を多く持つ必要もないそうで、多額の現金を銀行から引き出すことにも抵抗感が強いようです。この点も日本とはだいぶ違うようです。
 日本維新の会は、超高齢化社会の負担の問題を解決するために、世代ごとに受益と負担を均衡させるため、資産課税の強化を提案しています。日本の個人金融資産の大半を持つ高齢世代が「世代としての自立」を図るためには、資産を「持てる高齢者」の資産を世代内の助け合いとして社会保障に活用していく必要があります。そのための手段としては、自らの意思で資産を支出に回すことが結果として社会保障におカネを回すことにつながる仕組みを構築することが日本型の「助け合い社会」を創る上での王道となりますが、他方で税制面でも資産ストックの社会保障への活用をもっと考える必要があります。しかし、日本の課税当局による個人資産の捕捉の度合いは極めて低く、今後、マイナンバー制度の拡張で状況を改善していくべきであることを、私も国会論戦でたびたび主張してきました。
 日本は人類史上経験のない超高齢化社会を迎えます。これは、それに伴う負担の問題を、これまで歴史上どの社会も経験したことのない先鋭さで国民に突きつけることになるでしょう。だからこそ、そして巨額の個人金融資産が存在するストック経済の日本あればこそ、所得や資産の捕捉の完璧さがどの国よりも高度なレベルで求められてくることになるのではないでしょうか。それは決して容易なことではなく、本当にそれをやるのなら、スウェーデンのように、課税当局の情報機能を徹底的に高めることが不可欠なのかもしれません。日本はもっと、この課題に真剣に向き合い、漸進的でパッチワーク的な弥縫策ではなく、よりシステマティックな対応を決断できるのかどうかが問われているように思われます。

●歳入庁構想を考えるに当たって
 もう一つ、日本では国税庁を財務省から切り離して内閣府のもとに置き、そこに社会保険料の徴収機能を吸収して「歳入庁」を設置することが議論されています。国会でもみんなの党が強く主張し、日本維新の会もこれに乗ることになっています。確かに、スウェーデンの国税庁は、そのような歳入庁のモデルになるものかもしれません。
 しかし、よく考えてみると、スウェーデンの年金制度は税を財源とする最低保証年金を基本にしており、その上に所得に比例して年金保険料を財源とする制度が組み合わさっています。つまり、年金という一つの制度において、税と社会保険料が財源として有機的に一体化された仕組みになっています。これに対して、日本維新の会は積立方式の年金制度を主張しています。社会保険料は自助努力の世界ですが、税は所得分配と相互扶助の世界であり、もし、「自立」の考え方を基本に自助努力の論理である積立方式の年金制度を主張するのであれば、その財源である保険料は、論理の異なる税と一体の組織ではなく、制度や組織としては峻別して徴収するほうが理屈の上では正しいということにならないでしょうか。徴収効率の問題は、マイナンバー制度の導入によって解消されることになりました。そもそも税と保険料の徴収効率を上げる手段には、番号制度か組織の一体化の2つの選択肢がありました。番号制度でこの問題が解消される以上、自助努力の世界で年金の徴収と支給を一体化し、税と混同しない仕組みのほうが、自立の精神にかなうようにも思われます。今後、より深い議論が必要だと思います。
 いずれにしても、スウェーデンのように精緻な仕組みを築き上げることで国民からの信頼を勝ち得た社会保障システムが機能しているのなら、消費税率アップには賛成せざるを得ないだろうと、消費税率引上げに賛同していない某政党からの視察参加議員が漏らしていました。どの分野であれ、信頼度の高い社会システムの構築は、日本の政治にとっての大きな課題だと感じます。

●ストックホルムでは…
 午前中の国税庁訪問に続き、8月22日のストックホルムでの視察団の次の仕事は、午後に企業省を訪問して、交通事故ゼロを目標とする「ビジョン・ゼロ」の政策について議論することでした。同国では、警察だけでなく、道路システムを含めた社会インフラの問題として交通事故対策に取り組んでいます
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「スウェーデン企業省にて。」

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「ストックホルム市内、国会議事堂前にて。」

 夕方の市内視察を経て、渡邉大使主催の夕食会は他国のような大使公邸ではなく、市内の洞窟のような地下レストランでトナカイの肉を賞味しました。他の議員の多くは食べきれなかったようですが、私は平らげました。ちなみに、スウェーデンなど北欧の国々では、クリームで味付けしたシャケや、ニシンの酢漬けなど、豊富な海産物のバイキングをホテルの朝食でたっぷりと堪能できるのが楽しみです。少なくとも、30年ほど前に私がドイツに在住していた時に北欧の田舎を訪れた際はそうでした。しかし、議員海外視察というのは決して贅沢なものではなく、我々一行が公費支給の旅費の範囲で宿泊したホテルは、日本でいえばビジネスホテルとあまり変わりなく、物価の高いストックホルムではそのような楽しみは味わえなかったのが心残りです。
 翌23日は午前4時起きで、ストックホルム7時発の飛行機でエストニアの首都、タリンに向かって飛び立ちました。これも、22日の夜にストックホルム港をフェリーで発ち、バルト海の船旅を楽しみながら向かえば翌日の昼にはタリン港に着くはずでしたが、タリンでは翌日朝から公務を抱えた我々一行には、そのようなゆったりとした旅を楽しむ余裕はありませんでした。
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「夕食で食べたトナカイの肉。」

 次回はIT立国のエストニアの報告です。