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松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、蛍光ライブセルイメージングを用いた卵丘細胞の代謝産物と妊娠成績との関連を示した研究です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 1176(米国)doi: 10.1093/humrep/deae087

要約:2018〜2020年にART治療(体外受精、顕微授精)を実施した223名(女性平均年齢36.5歳)を対象に、採卵した851個の卵子それぞれの卵丘細胞を採取し、凍結保存しました。なお、採卵数は平均16.9個(1〜50個)でした。蛍光ライブセルイメージング(FLIM)を用いて卵丘細胞の代謝産物を測定できた623個について、培養成績および妊娠成績との関連を前方視的に検討しました。いずれのパラメータも初期胚グレードや染色体異数性との相関を認めませんでしたが、FAD+FLIMパラメータは胚盤胞のグレードと有意な関連を認め、妊娠や出産に至った胚ではFAD+短時間作用型が有意に低く、FAD+分数エンゲージ型が有意に高くなっていました。

 

解説:卵丘細胞と卵子のシグナル伝達および代謝経路の協同性(双方向クロストーク)が知られていますが、卵子や胚の発生能を反映する卵丘細胞のバイオマーカーは明らかにされていません。例えば、卵丘細胞のミトコンドリア活性と卵子の発生能の関連は認められませんし、卵丘細胞の遺伝子発現検査の有用性も認められません。そこで、卵丘細胞の代謝産物を測定することで、卵子の発生能を判断できるのではないかと考え、本論文の研究が行われました。

 ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、NADPH、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、自己蛍光代謝補酵素であり、いくつかの代謝経路で重要な役割を果たすため、蛍光ライブセルイメージング(FLIM)により蛍光強度と寿命がわかります。蛍光強度は濃度を反映し、寿命は補酵素の尺度となります。FLIMは合計9つの異なる定量的パラメーターを提供します。女性年齢AMH値とFLIMパラメータの関連が報告されています。また、同一患者でもそれぞれの卵子に付随した卵丘細胞ののFLIMパラメーターにばらつきがあり、卵子の成熟状態に関連していることも報告されています。

 本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、蛍光ライブセルイメージングを用いた卵丘細胞の代謝産物FAD+FLIMパラメータと妊娠成績に有意な関連があることを示しています。卵丘細胞は廃棄される細胞であるため、卵丘細胞の代謝産物を調べる本法は、妊娠成績改善のための胚選択の新しいツールになる可能性があります。