GnRHa律動投与法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、GnRHa律動投与の有効性を検討したものです。

 

Fertil Steril 2025; 2: 270(フランス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.354

Fertil Steril 2025; 2: 243(米国) doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.11.026

要約:2004〜2022年にひとつの大学病院で、機能性視床下部無月経(FHA)111名と先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(CHH)30名を対象に、90分に1回のポンプによるGnRHa律動投与を行い、妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、GnRHa投与量は患者のBMI、AMH、AFCによって決定し、排卵後5日目まで投与しました。また、血中黄体ホルモンの増加により排卵を確認後、hCGを投与して黄体サポートを行いました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

       FHA群   CHH群   P値

FSH基礎値  4.80  > 2.55   <0.001

BMI     18.5  > 22.6   <0.001

投与日数   18.2日 < 23.6日  <0.001

排卵率    72.8%   67.6%   NS

妊娠継続率  21.5%   22.0%   NS

NS=有意差なし

 

なお、CHH群では、FSH基礎値が妊娠継続率と正の相関を示しました(オッズ比1.57、95%信頼区間1.11〜2.22)。また、CHH患者30名のうち、19名は原因不明、5名はカルマン症候群、6名はGnRH遺伝子変異でした。

 

解説:機能性視床下部無月経(FHA)は、GnRHの律動性(90分に1回の刺激)が低下することが原因です。一方、先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(CHH)は多彩で、半数は遺伝子が特定されますが、半数は原因不明です。これらの方には、GnRHa律動投与が効果的で、排卵率は75.6〜85.2%と報告されていますが、FHA患者とCHH患者の違いについては明らかにされていませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、FHA患者と比べCHH患者ではFSH基礎値が低く、GnRHa投与(刺激)日数が長くなるけれども、排卵率や妊娠継続率は同等であることを示しています。

 

コメントでは、後方視的かつ単一施設であるという制限があるとしながらも、FHA患者およびCHH患者におけるGnRHa律動投与の臨床的意義を高く評価しています。しかし、GnRHa律動投与は、現在米国では利用できず、一部の欧州諸国でのみ利用可能です。GnRHa律動投与は基本的に単一排卵であり、HMG/FSH製剤に伴う多胎妊娠のリスクを低下させることが可能であり、世界中で利用できるようになるよう求めています。

 

私も、東海大学在籍中の1990年代後半から2000年初頭に、GnRHa律動投与のポンプを取り扱った経験があります。薬剤(ヒポクライン)は保険適応でしたが、ポンプが当時の値段で30万円であったこと、皮下注射の針を腹部に刺入した状態で衣服の中にポンプを入れて毎日過ごす必要があったため、結局普及しませんでした。