Q&A4285 ☆モザイク胚を移植すべきか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 43才、AMH 3.1、去年から第一子不妊治療を開始、自費採卵PGT-A

採卵3回16個のPGT-Aをしていますが、正常胚はなく、モザイク胚2個しかありません。高齢につき、正常胚が得られる確率が低いため、モザイク胚の移植も考えていますが、複合型モザイク胚につき、移植すべきか決めきれず、アドバイスを頂けると幸いです。なお、検査方法は次世代シークエンサー(NGS法)になります。

①低頻度モノソミーモザイク14番、16番、20番(この3つは一部分の異数性)と19番に異常があるものです。報告書にモザイク率の記載はされていません。波形を見ると、14番、16番、20番は縦軸コピー数の目盛の1.5以内で一部分が下振れ、19番は1.5の目盛をほんの少し超えたものから、1.5以内で全体的に下振れています(説明が分かりにくく、申し訳ありません)。PGDISが2019年度に出した見解だと、低頻度モザイク胚移植は優先してよいとのことですが、複数染色体に異常がある場合でも移植してよいものなのでしょうか。
②高頻度モノソミーモザイク16番(P13.3-p11.2)と低頻度モノソミーモザイク12番(一部分)に異常があるものです。波形は、16番は縦軸コピー数の目盛の1.2に一部分が乗っておりハイライトされています。12番は目盛1.5以内で一部分が下振れています。

 

移植順としては、①→②の順になるかと思いますが、高頻度モザイク胚でも染色体異常本数が少ない胚の方が流産率は低いのでしょうか。

 

A モザイク胚移植に関するコンセンサスは、現在のところ得られていません。従って、移植の順番やリスクなどに定まったルールはなく、基本的にブレ幅の少ないもの、モザイクが認められる染色体の本数の少ないものを移植するといった、ありきたりの方針にとどまっています。波形を見てみないとわかりませんが、通常は①→②の順になると思います。妊娠率や流産率についてはわかりません。

 

なお、PGDISの2016年と2019年のモザイク胚の取り扱いに関するガイドラインは既に取り下げられており、2021年の最新版は下記です。

 

Reprod Biomed Online 2022; 45: 19(PGDIS)doi: 10.1016/j.rbmo.2022.03.013

要約:モザイク胚は、一部の患者にとって胚移植の唯一の選択肢となる場合があります。最近のデータでは、このようなモザイク胚は、正常な赤ちゃんの誕生が可能であるとされています。いくつかの研究では、モザイク胚移植は妊娠率低下と流産率増加が示唆されており、高頻度モザイクほど好ましくないようですが、論文はわずかしかありません。低頻度モザイク胚の移植については多くの論文があり、正常胚と同様の結果という報告や妊娠率が低いという報告もあります。

 

これに対して、下記のレビューが発表されています。

J Assist Reprod Genet 2023; 40: 817(米国、オーストリア、イスラエル)

https://doi.org/10.1007/s10815-023-02763-6

要約:PGDISによる物議を醸したガイドライン3件によりPGT-Aに混乱が生じています。PGDISの現在のガイドラインは、すでに撤回された以前の2件よりも誤解を招く可能性は少ないものの、それでも誤った表現や矛盾に満ちています。PGDISの文書は、赤ちゃんになれる可能性のある胚の未使用あるいは廃棄を依然として防止できておらず、多くの女性に有害なART治療を広め続けています。PGD​​ISガイドラインが多くの点で誤っていたため、今後正しい判断がなされない場合には、FDAがNIPTに対して行ったように、政府機関による介入を求める声が強くなっています。

 

なお、このQ&Aは、約2〜3週間前の質問にお答えしております。