ドナー卵子でのPGTの有用性は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ドナー卵子を用いたPGTの妊娠成績に関する全米データの報告です。

 

Fertil Steril 2024; 123: 50(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.315

要約:2014〜2015年に実施したドナー卵子を用いた初回治療における妊娠成績について全米データ(SART-CORS)を用いて、新鮮卵子を用いた11,348周期と凍結卵子を用いた7,214周期の違いを、PGT-Aの有無も考慮し後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

           新鮮ドナー卵子           凍結ドナー卵子

PGT-A      有     無   P値      有     無   P値

初回移植出産率 46.9% < 53.2% <0.001    48.3%   40.5%  NS

累積出産率   58.4% < 66.6% <0.001     N/A    N/A

流産率      8.8%   11.1%  NS      9.3%   10.0%  NS

NS=有意差なし

N/A=データなし

 

なお、多胎妊娠率、早産率、低出生体重児率については、単一胚移植では有意差を認めませんでした。

 

解説:米国生殖医学会(ASRM)は、高齢女性、高FSH、卵巣予備能低下(DOR)、卵子あるいは胚の質が不良、胚移植反復不成功、重大な遺伝性疾患、代理母希望の場合にドナー卵子の使用を認めています。卵子提供により、自己卵で妊娠できなかった夫婦にお子さんが授かるようになりましたが、最適な方法については結論が出ていません。一方、着床前遺伝学的検査(PGT)も広く行われるようになってきましたが、全米データ(SART-CORS)によると、40歳未満ではPGT-A実施はPGT-A非実施よりも累積出産率が有意に低いことが示されています。ASRMは、卵子ドナーの条件として、慎重な遺伝子スクリーニングを受け、21~34歳であることを推奨しています(つまり40歳未満に該当)。しかし、ドナー卵子を用いたPGTの有用性に関する報告は(おそらく小規模のため)まちまちであり、大規模な研究が待たれていました。本論文はこのような背景のもとに行われた全米データ(SART-CORS)を用いた検討であり、新鮮ドナー卵子を用いるとPGT-A実施により出産率が有意に低下するが、凍結ドナー卵子を用いるとその有意差を認めないことを示しています。