本論文は、ドナー卵子における理想的な顕微授精の個数に関する検討です。
Fertil Steril 2024; 122: 1048(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.035
Fertil Steril 2024; 122: 1012(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.09.045
要約:2013〜2022年に単一医療機関で新鮮ドナー卵子による初回顕微授精を実施した543名750周期を対象に、1人の生児出産後に凍結保存されている凍結胚盤胞数について検討しました(症例対照研究)。なお、指定ドナー、32歳以上のドナー、代理母、TESE、PGTを除外しました。また、ドナーの平均年齢は26.6歳、レシピエントの平均年齢は42.9歳でした。成熟卵数の中央値は10個、顕微授精8個、移植可能胚4個、余剰凍結胚盤胞2個でした。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
〜7個 8〜10個 11〜14個 15個〜 P値
症例数 114 180 138 111 〜
成熟卵数 6個 < 9個 < 12個 < 18個 <0.01
正常受精数 5個 < 7個 < 10個 < 16個 <0.01
移植可能胚 3個 < 4個 < 5個 < 8個 <0.01
余剰凍結胚盤胞 1個 < 2個 < 3個 < 6個 <0.01
出産率 76.7% 142.8% 102.7% 89.8% NS
NS=有意差なし
解説:ガラス化法による凍結技術の進歩により、凍結胚数が近年増加しています。2021年の段階で、少なくとも150万個の胚が保管されていると推定されています。ご希望のお子さんを出産した後の余剰凍結胚は廃棄される訳ですが、それは生物学的にも金銭的にも勿体無いことです。本論文は、このような背景のもとに行われた検討であり、ドナー卵子における理想的な顕微授精の個数は7個程度ではないかとしています。
コメントでは、現在レシピエントは使用する卵子数を選択(調整)することができないため、およそ10個の卵子を用いて顕微授精を行なっています。健康なドナー卵子1個から赤ちゃんが生まれる確率は13%(つまり1/7)ですから、本論文の検討と一致します。顕微授精実施数を7個に設定すると、残りの卵子をどうするかという新たな問題が生じます。自ら使用するための卵子凍結、卵子バンクに登録、研究のために寄付、あるいは廃棄などの選択肢があります。料金をどうするかという問題も生じます。
余談ですが、現在胚の廃棄を禁止している国はマルタだけです。マルタでは受精させる卵子は3個までで、結果として生存胚はすべて移植しなければなりません。この方針は妊娠率を著しく制限するだけでなく、移植されない胚が蓄積しており、おかしな状況を生み出しています。