NICU入院の実態調査 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、NICU入院の実態調査を行ったものです。

 

J Obstet Gynaecol Res 2023; 49: 273(日本)doi: 10.1111/jog.15478

背景:2010年、2015年、2020年に東大病院NICUに入院した新生児を後方視的に調査しました。それぞれ131人、201人、323人を対象とし、自然妊娠、非ART妊娠(排卵誘発剤、人工授精)、ART妊娠(体外受精、顕微授精)に分類し、要因を比較しました。ART妊娠で出産した新生児の入院率は、2010年の9.1%と比べ2015年の22.9%、2020年の25.7%へ有意に増加しました。単胎妊娠では、ART妊娠で出産した新生児はNICU入院率が有意に高くなっていましたが、先天異常および外科的処置は、自然妊娠がART妊娠よりも有意に多くなっていました。また、妊娠様式の違いで母体および新生児転帰に有意差を認めませんでした。

 

解説:不妊治療は、早産、低出生体重児、先天異常の割合を増加させることが従来報告されていますが、これらは全て多胎妊娠が高いことに起因していました。原則単一胚移植になって以来、多胎妊娠の頻度は著しく減少しました。最近では、ART妊娠と自然妊娠の赤ちゃんは変わりません。つまり、ART妊娠と自然妊娠の結果の違いは交絡因子によるものであり、不妊治療自体は赤ちゃんの結果にはほとんど影響しないという結論に至っています。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、NICU入院におけるART新生児の頻度と内容を調査したものであり、ART妊娠はNICU入院率を高める可能性を示唆しています。しかし、妊娠様式の違いで母体および新生児に有意差を認めていません。