☆2019〜2022年に精子提供候補者の精液所見が低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、デンマークでは2019〜2022年に精子提供候補者の精液所見が低下していることを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 1618(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/deae115

要約:2017〜2022年にデンマークの4都市(オーフス、オールボー、コペンハーゲン、オーデンセ)で、精子提供候補者である18〜45歳の男性6758名から提供された1回の精液サンプルを対象に、精子ドナーとしての基準を満たしているかどうか、同一の手法を用いて評価しました。なお、精液は射精後1時間以内に分析しました。2017〜2019年では、精液量、精子濃度、総精子数が2~12%増加していました。2019〜2022年では、精子濃度と総精子数が年間0.1~5%変化しましたが、これらの変化は統計的に有意ではありませんでした。しかし、運動精子濃度は16%(1840万→1550万)、総運動精子数は22%(6140万→4810万)有意に減少していました。なお、利用可能なデータからは、2019〜2022年にかけて精液所見が低下した要因を特定することはできませんでした。ただし、この期間は新型コロナウイルス感染症によるロックダウンに伴う就労の変化の時期と一致しており、それらに伴うライフスタイルの変化による可能性があります。

 

解説:近年、ヒトの精液所見が低下していると言われていますが、多くの研究では不妊症の方を対象としているため、あるいは母集団に偏りがあるため、一定の結論は得られていません。一方で、精子提供候補者は、時間経過に伴うヒトの精液所見の変化をモニタリングするのに有用な集団であると考えられます。このような背景の元に本論文の研究が行われ、デンマークでは2019〜2022年に精子提供候補者の精液所見が低下していることを示しています。今後、精子提供候補者の健康状態とライフスタイルのデータを収集することで、精液所見低下の原因を特定し介入を個別化するのに役立つ可能性があります。