本論文は、出産時の父親年齢の高齢化の影響についてのオピニオンです。
Hum Reprod 2024; 39: 1161(ドイツ、スウェーデン)doi: 10.1093/humrep/deae067
解説:出産時の父親の年齢が上がるにつれて、お子さんの疾患罹患率や死亡率が高くなり、生殖能力が低くなるという論文が増えています。さらに、父親の年齢は次世代にも影響を及ぼすことが示唆されています。しかし、父親の年齢に関するデータは母親よりもはるかに少ないため、この視点を父親に適用することは母親よりも困難です。人口統計データによると、出産時の父親の平均年齢はここ数十年で大幅に上昇していますが、過去をさかのぼると、1900〜1920年が最大で、1970年代に最低となり、その後徐々に増加し1900年初頭のレベルに近づいています(つまりU字型)。約120年前の西欧で出産時の父親の年齢が高かったのは、人口増加に限界があると考えられていたためと、出生制限を奨励しない宗教的規範があったため、高齢になるまで結婚を遅らせる伝統があったからです。その後、男性の賃金は上昇し、女性は雇用における法的障壁に直面したため、男性が仕事をし女性が子育てに専念する状況が生じました。このため出産時の父親の年齢が非常に低いレベル(女性25歳、男性30歳)にまで低下しました。近年、女性に多くの雇用機会が生まれ、女性の社会での役割が増加し共稼ぎが増えました。このため、高等教育を受けた女性の割合が大幅に増加し、教育を終えて社会で地位を確立するまで子供を持つことを延期することが多くなりました。また、経済と金融の不確実性の増大により出産延期傾向がさらに促進されました。
出産時の父親の高齢化の影響は、過去にも経験しているため、あまり心配する必要はないのでしょうか。この質問に対する答えは複雑で、個人レベルの場合と、集団レベルの場合によって異なります。個人レベルでは、生活や医療の水準が昔より向上しています。集団レベルでは、父親の加齢に関連した生物学的不利益が生活や医療の改善でどの程度相殺されるかについては明らかではありません。例えば、若い父親は精子の質が良いため、子供にとっては生物学的に有利でしょう。一方、高齢の父親の子供は、父親の経済的および社会的優位性から別の恩恵を受ける可能性があります。医学の進歩 は平均寿命を延ばしただけでなく、老化速度や人体の生物学的プロセスにも大きな影響を与えています。たとえば、生活水準の向上により体内の消耗プロセスが遅くなったため、高齢の父親を持つことによる社会的影響は時間の経過とともに鈍化した可能性があります。また、生物学的年齢、社会的年齢、実年齢の区別がつけられておらず、生物学的年齢と社会的年齢はより優れた指標であるとされるにもかかわらず、多くの研究では実年齢を採用しています。また、胎児の奇形や障害による妊娠中絶は多くの先進国で一般的であるため、父親の高齢化の影響が低く見積もられている可能性があります。最後に、出生時の両親の年齢の相互作用に焦点を当てた研究はほとんどありませんが、両親の年齢の相互作用が相加的なのか相乗的なのかなどについても明らかにする必要があります。
解説:今回のオピニオンは、いつもと毛色が異なっています。出産時の父親年齢の高齢化は現代の問題ではなく、過去(1900年初頭)の問題でもあったのは驚きです。100年前と比べれば、格段に医療が進歩していますので、同列に論じてはいけないと思いますが、過去を知ることで今をより深く知る(考える)ことになれば良いと思います。大変興味深く読ませていただきました。