本論文は、PIEZO-ICSIの効果に関する検討です。
Fertil Steril 2024; 121: 971(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.028
Fertil Steril 2024; 121: 962(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.015
Fertil Steril 2024; 122: 187(オーストリア)質問 doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.020
Fertil Steril 2024; 122: 188(オーストラリア)回答 doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.03.021
要約:2020〜2021年に顕微授精(ICSI)の適応のある夫婦で、採卵時の成熟卵が6個以上ある方108名(平均年齢35.5歳)を対象に、PIEZO-ICSIと従来のICSI(cICSI)を半々で実施し、培養成績および妊娠成績を前方視的に検討しました(siblingスタディ)。なお、成熟卵数が奇数の場合の残りの卵子は従来のICSIを行いました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
cICSI PIEZO-ICSI P値
成熟卵数 614個 591個 〜
受精率 65.6% < 71.6% 0.028
変性率 12.1% > 6.3% 0.002
グレードA+B胚盤胞 27.5% < 33.3% 0.019
PGT正常率 43.4% 47.6% NS
臨床妊娠率 56.0% 63.9% NS
出産率 44.0% 58.3% NS
解説:1990年代初頭に始まったICSIは男性不妊の治療のために開発されました。男性不妊以外でもICSIはしばしば行われ、現在は全ART周期のおよそ70%で実施されています。針で細胞を貫く操作が卵子へのダメージをもたらすことがあるため、ダメージの少ない方法の開発が模索されてきました。従来のICSIでは、透明帯と細胞膜を貫通して細胞質を吸引するために、斜めにカッティングした針を用います。PIEZO-ICSIでは、先端が丸いマイクロピペットと高速で正確な前進運動のピエゾパルスを使用して、細胞質を吸引することなく透明帯と細胞膜を突き破ります。PIEZO-ICSIは1995年にマウスで導入され、さまざまな動物で実施され、受精率、胚発育率、妊娠率が向上が確認されています。その後ヒトでも行われるようになりましたが、世界的には未だ普及していません。ヒトでのこれまでの報告の多くはペアコホートであり、siblingスタディーやランダム化試験はありませんでした。本論文は、このような背景の元に行われたsiblingスタディーであり、従来のICSIと比べ、PIEZO-ICSIで受精率増加、変性率低下、胚盤胞の質の向上を示しています。現在、PIEZOは全てのクリニックで実施している訳ではありませんが、リプロダクションクリニックの顕微授精は、すべてPIEZOで行っています。
コメントでは、本論文の功績を称えつつ、対象集団の選定や妊娠成績など、さらなる研究が必要だとしています。
本論文に対する質問:cICSIの変性率が12.1%ですが、この数値は一般的な変性率よりも高く、このため受精率が65.6%と低くなっています。患者側の要因も考えられますが、培養士の技術の問題との見方もできます。これと比較したPIEZO-ICSIの変性率が良好であるのは大変良いことだと思いますが、ベースラインの成績が不良であるため信頼性に疑問が残ります。
質問への回答:cICSIの変性率に関しては、患者の特性、刺激薬剤、培養士、消耗品など、さまざまな要因によって影響を受ける可能性があります。本研究期間中の当院の全患者のcICSIの変性率は4.8~8.3%でした。したがって、変性率が12.1%だった理由は本臨床研究に登録した患者の特性によるものと考えています。つまり、対象患者は過去のcICSIで受精率が低かったため、PIEZO-ICSIに期待して臨床研究に参加していた訳です。また、オーストラリアの全てのクリニックのcICSI受精率は65.2%であり、本研究の65.6%は決して低いものではありません。