卵管造影とソノヒステロのどちらが良い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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今月の紙面上バトルは、子宮卵管造影(HSG)とソノヒステロ(生理食塩水注入超音波、SIS)のどちらが良いかについてです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 922(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.003

Fertil Steril 2024; 121: 921(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.001

要約:卵管造影とソノヒステロのどちらが良いか、6名の医師に意見を伺いました。

 

ソノヒステロ(SIS)が有用:

 卵管評価のゴールドスタンダードは、腹腔鏡での卵管色素通水による診断ですが、全身麻酔と入院が必要です。卵管評価の非侵襲的方法には、HSGとSISがあります。腹腔鏡検査と比べたHSGの診断精度は、最大で42~45%不一致との報告があります。HSGによる卵管通過性の診断は感度65%、特異度83%、SISによる卵管通過性の診断は感度92%、特異度95%と報告されています。なお、SISとHSGの比較では卵管評価における感度と特異度に有意差はありませんでした。HSG実施中に卵管痙攣により近位卵管閉塞が起こる可能性があることがよく知られています(偽陽性)。不妊症の一般検査は、低侵襲、迅速、費用対効果の高いものであるべきです。SISとHSGの感度と特異度は同等であるため、SISに軍配が上がります。

 子宮腔内病変評価のゴールドスタンダードは、子宮鏡による直接観察です。SISに超音波造影剤(気泡)を導入することで、子宮腔を可視化できるようになりました。ポリープの診断において、子宮鏡と比べSISは感度100%、特異度100%ですが、HSGは感度50%、特異度96.5%であり、SISが有用です。子宮内癒着の診断では、子宮鏡と比べHSGは感度75.0%、特異度95.1%、SISは感度75.0%、特異度93.4%と同等です。子宮形態異常の検出において、HSGは感度44.4%、特異度96.4%であり、結局のところMRIや3D超音波が必要になります。

 HSGは放射線(実効線量1.2mSV、参考までに一般人の年間放射線被爆は3.1 mSV)とヨウ素造影剤を用います。一方、SISは放射線被曝がなく、使用する生理食塩水も無害です。検査にかかる時間はHSG 6.1分、SIS 5.3分と同等ですが、痛みスコアは10点満点中HSG 5.8点、SIS 2.7点と有意にHSGで高くなっています。HSGはレントゲン撮影装置と透視用装置が必要であり初期投資にお金がかかりますが、SISでは既存の超音波でまかなえます。

 

HSGが有用:

 卵管病変と子宮内病変の両方を評価する上で最適な方法については世界的なコンセンサスは得られていませんが、HSGが最もよく実施されています。米国生殖医学会(ASRM)の調査では、442人の回答者の88.3%がHSGを実施しており、2021年のASRMの声明では「HSGは卵管の通過性を評価するための標準的な第一選択である」としています。HSGは、子宮形態と卵管を評価する上でSISよりも比較的優れており、造影剤注入技術に注意を払えば、子宮腔内病変に対しても高い感度と特異度を提供できます。しかし、検査の選択は患者の病歴や好み、治療目標を考慮して行うのが最善です。例えば、ART治療に移行する場合にはSISを選択し、卵管を利用した妊娠を目指す場合にはHSGを選択するのが良いでしょう。

 HSGは子宮形態異常の診断にも役立ちますが、SISでは子宮形態異常の評価はできません。子宮腔内病変の検出はSISの強みとして広く認識されており、88%~98%の高い感度と94%~100%の高い特異度が示されていますが、HSGは感度50%~98%、特異度15%~85%と大きなばらつきがあります。一方で、子宮腔内病変の評価に関する前方視的ランダム試験では、HSG(60%)、SIS(52%)、オフィス子宮鏡(72%)に統計的に有意な差は認められていません。したがって、子宮腔内病変の評価はまず2次元超音波で行い、異常が疑われる場合には3D超音波あるいはMRIを実施します。

 SISよりもHSGを第一選択する最大の理由は、卵管通過性における優位性です。SISは左右別々に卵管通過性を評価しますが、HSGは左右同時に卵管通過性を評価できます。また、HSGは卵管内の閉塞部位を確認できるという点でもSISより優れています。SISと比べHSGは卵管溜水腫の検出においてより正確であることが報告されています。さらに、HSGは診断だけでなく治療にも役立ちます。HSGは、粘液や月経生成物の除去により、自然妊娠率が高くなることが示されています。

 

解説:このバトルは毎回そうなのですが、全く議論がかみ合っていません。まさに平行線です。その最大の理由は、両者のスタンス(立ち位置)にあると思います。SIS派はエビデンス重視であり、HSG派は実地臨床に基づく考えです。結論的には、ART治療に移行する場合にはSISか子宮鏡を選択し、卵管を利用した妊娠を目指す場合にはHSGを選択するのが良いと思います。

 

コメントでは、卵管通過性の診断の歴史的経緯を述べています。HSGは1914年、卵管通気検査は1920年に開発されましたが、HSGは当初あまり実施されませんでした。おそらく、HSGの画像が不鮮明だったことが最大の理由だと考えられます。画像が鮮明になってからはHSGが普及したものの、ART治療(=卵管を使わない治療)が広く実施されるようになってからは卵管閉塞(狭窄)の評価は重要ではなくなりました。妊娠成績に影響する卵管水腫は超音波で十分評価できるため、(着床を妨げる)子宮腔内病変の評価が重要となり、HSGの代わりにSISが普及することになりました。今回のバトルを是非お楽しみくださいと締めています。