☆凍結卵子と新鮮卵子の胚発生の違い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、凍結卵子と新鮮卵子の胚発生に関する研究です。

 

F&S Sci 2024; 5: 174(ギリシャ)doi: 10.1016/j.xfss.2024.03.002

要約:ドナーの凍結卵子58周期421個と新鮮卵子23周期196個を対象に、培養成績および妊娠成績を後方視的に検討しました。ガラス化法による凍結卵子の融解後の生存率は92.6%でした。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

        凍結卵子   新鮮卵子   P値

受精率     71.9%    80.7%    NS

変性率     10.6%    5.0%      NS

良好胚盤胞率  43.4%    50.5%    NS

臨床妊娠率   44.2%    52.2%    NS

出産率     41.0%    50.0%    NS

NS=有意差なし

 

タイムラプス培養のパラメータ分析において、凍結卵子と新鮮卵子で有意差のみられた項目は、CC1(第2極体放出から2細胞までの時間)のみであり、CC1a(前核消失から2細胞までの時間)は有意差を認めませんでした。

 

      凍結卵子   新鮮卵子   P値

CC1    26.4時間 > 23.6時間  0.004   

CC1a    6.8時間 < 10.1時間  0.057   

 

解説:卵子凍結は2013年までは実験的なものと考えられていましたが、ガラス化法凍結が成績向上に大きく寄与し、現在は日常的な診療になっています。医学的または個人的な理由で妊孕性を温存したい女性やドナー卵子バンクで広く実施されています。新鮮卵子と凍結卵子の違いについてタイムラプス培養を用いた研究は少数です。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、凍結卵子のCC1は新鮮卵子と比べ3時間遅い発育で、逆にCC1aは新鮮卵子と比べ3時間速い発育でしたが、これらの一時的な違いはその後の胚発生や妊娠成績に影響を与えないことが示されました。