☆体外受精と顕微授精で正常率に違いは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、体外受精と顕微授精で正常率に違いがあるか否か検討したものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 799(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.041

Fertil Steril 2024; 121: 787(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.019

要約:2014〜2017年男性不妊のないPGT30,446周期を対象に、全米のART登録データべース(SART-CORS)から、体外受精4,867周期と顕微授精25,579周期の正常率の違いを後方視的に検討しました。結果は下記の通り。全ての項目に有意差を認めませんでした。

 

     体外受精   顕微授精   P値

年齢    38.0歳   37.0歳    NS

BMI    23.5    23.6     NS

刺激日数  12.0日   12.0日    NS

総HMG量 3375IU   3550IU   NS

採卵数   12.0個   12.0個    NS

正常率*   41.6%   42.5%    NS

出産率   50.1%   50.8%    NS

流産率   16.6%   15.5%    NS

*正常率=移植可能胚の確率

NS=有意差なし

 

解説:顕微授精は男性不妊における受精方法として登場しました。男性不妊は全体の33.3%と報告されていますが、米国では全体の75%で顕微授精が行われています。PGTの実施件数は、2009年に4%でしたが、2019年には40%超に増加しました。当初PGTでは精子の遺伝子の混入を懸念して顕微授精のみが採用されていましたが、現在の遺伝子解析技術では体外受精でも問題なくPGTが実施できるようになりました。男性不妊ではない場合のPGTにおける顕微授精の必要性については、必ずしも十分なデータはありません。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、全米のART登録データべース(SART-CORS)を用いて、体外受精と顕微授精で正常率を検討したところ、正常率に違いがないことを示しています。

 

コメントでは、本論文の検討を高く評価しており、PGTを実施することを理由に顕微授精を行うのは意味がないとしています。なお、新生児を含め小児の転帰を評価するデータは依然として不足しています。