☆DCやRCなどの異常分割は出産とは無関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、DCやRCなどの異常分割は出産とは無関係であることを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 955(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/deae062

要約:2017〜2022年にオーストラリアの1施設で実施した自己卵を用いた胚移植1562周期(母体平均年齢35.1歳)を対象に、妊娠転帰について後方視的に検討しました。すべての胚はタイムラプスインキュベータ(TLI)で培養し、ダイレクト分割(DC)、リバース分割(RC)の有無を確認しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

        異常分割なし   DC   RC   複合

胚盤胞到達率   67.2% >  19.5%  41.7%  26.4%

出産率      30.8%    25.9%  33.0%  〜

分娩時週数    38.5週    38.7週  38.5週  〜

出生時体重    3313g    3343g  3378g  〜

 

いずれの異常分割も、影響を受けた割球の割合が多いほど胚盤胞到達率が有意に低下していました。

 

解説:非侵襲的アプローチによる最良胚の選択が重視される中、TLIの登場により胚の継続的なモニタリングが可能になりました。DCやRCなどの異常分割は簡単に見分けられるため、多くの施設で実施しています。異常分割がみられた胚は着床率が低下することが知られていますが、異常分割胚の出産に関する報告はほとんどありません。これは、異常分割胚の移植の優先順位が低いためと考えられます。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、DCやRCなどの異常分割胚は胚盤胞形成率が低下しますが、ひとたび胚盤胞になってしまえば出産率や出生時体重とは無関係であることを示しています。この結果は、胚の自己修正メカニズムの存在を示唆しています。しかし、本研究は後方視的検討であるため、結論を導くためには多数の症例による前方視的検討が必要です。

 

DCやRCがあると、その胚はダメだと思われている方(患者さんも培養士も医師も)が少なくないように思いますが、これまでの報告ではそこまで明らかにされていませんでした。本論文は、DCやRCなどの異常分割がある胚も、一度胚盤胞になってしまえば、その妊娠予後はDCやRCがない胚と同等であることを示しています。DCやRCは、あくまでも、同じランクの胚がある場合の順位付けの意味合いでしかありません。同じことは、0PN胚や1PN胚にも言えます。