☆妊娠までに要した期間が長い夫婦は短命!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、妊娠までに要した期間(Time To Pregnancy=TTP)が長い夫婦は短命であることを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 595(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/dead260

要約:1973〜1987年に出産した夫婦18,796組を対象に、お子さんの誕生から夫婦の死亡までを前方視的に調査しました。追跡期間は最長47年、死亡、移住、あるいは2018年(研究終了)まで、デンマークの人口データベースを元に追跡調査しました。出産前の初回インタビューで、妊娠までに要した期間(Time To Pregnancy=TTP)を尋ね、1年未満、1年以上、妊娠の計画なしの3群に分類しました。サブグループ解析では、TTP 1年以上を、12~35か月、36~59か月、60か月以上に分類しました。TTP 1年未満と比べ、TTP 60カ月以上の母親と父親は、それぞれ3.5年と2.7年生存期間が短かくなっていました。TTP 1年未満と比べた各群の死亡率オッズ比(95%信頼区間)は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

TTP 1年未満    1年以上    妊娠の計画なし  12~35か月  36~59か月   60か月以上

母親  1.00  1.29(1.12~1.49)   1.12      1.08      1.51    2.03(1.56〜2.63)

父親  1.00  1.21(1.09~1.34)   1.09      1.13      1.35    1.43(1.15〜1.77)

 

また、TTPの延長は、父親と母親で異なる死因と関連していました。

 

解説:ライフスタイルを含む環境因子は、女性不妊の70%と男性不妊の95%に関与し、残りの30%5%は遺伝的要因であるとの報告があります。また、男女とも生殖能力低下と死亡率増加の関連が示唆されていますが、TTPと両親の寿命に関するこれまでの研究のほとんどは数年程度の短期間の追跡調査でした。本論文は、30年以上の長期にわたる追跡調査を行ったものであり、TTPが長い(妊孕性が低い)夫婦は短命であることを示しています。TTPの延長は、父親と母親で異なる死因と関連しているため、妊孕性と生存に関与する原因が多因子である可能性を示唆します。TTPに関しては自己申告に基づいているため不正確性はありますが、TTPが強力な生存マーカーであることは重要な発見といえます。