Q&A3983 42歳、3895の続き | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2024.1.3「Q&A3895 PGT未実施胚が着床し、PGT正常胚が着床しません」で回答をいただきました。その際は、大変貴重なアドバイスをいただき、本当にありがとうございました。

その後、モザイク胚は移植せず、採卵と胚移植をしました。
2024年1月、フェマーラ ルトラール ゴナールエフ ブセレリン+オビドレル、採卵16個、体外受精6個受精、胚盤胞3個凍結(5日目4BB、5日目3BC、6日目4CC)
2024年2月、自然排卵周期、ウトロゲスタン ルトラール プロギノーバ バファリン(プロテインS活性) ダクチル(子宮収縮対策)オビドレル注射、SEET法、子宮内膜15.2mm、胚盤胞3個移植(上記全て)→陰性 hCG 0.6

過去6回の移植のうち、2023年3月の流産前までの3回の移植については着床していました(化学流産2回・稽留流産1回)。その後、2023年8月・11月についてはPGT正常胚を2回移植し陰性。PGTA正常胚が着床しないのは細胞採取による胚のダメージによる可能性が高いと考え、また、2023年6月のPGT正常胚率は66%(2/3)だったため、今回の移植ではPGTを実施せず胚盤胞を3個移植しました。

2023年3月の稽留流産後の5月に慢性子宮内膜炎(子宮内膜CD138細胞)や不育症検査・子宮内フローラ検査などは実施しています。今回の移植前に「内膜日付診」の検査をしたところ0.5日ずれがあるという結果をうけ、5.5日に移植しました。

①初期胚(新鮮初期胚、凍結初期胚)か胚盤胞か。
PGT正常胚(単一)2個、PGTA未実施胚盤胞3個移植し陰性で、次回は採卵となりますが、これまで同様に凍結胚盤胞移植を目指した方がよいのでしょうか(心拍確認までできた時の方法:自然排卵周期、ワンクリノン、HCG3,000単位注射、SEET法、胚盤胞1個移植をひたすら繰り返すべきか)。もし貴院に転院した場合、次回の採卵・移植をどのように考えるべきかアドバイスをいただけますと幸いです。また、高齢の場合、胚に負担をかけない初期胚移植・新鮮胚移植も検討した方がよいのではと思い、次回の採卵では初期胚も凍結し、初期胚3個程度の移植も検討しています。初期胚の場合、新鮮胚移植と凍結胚移植のどちらをまずは実施するのがよいのでしょうか。また個数は3個など複数移植がよさそうでしょうか(高齢の場合は、凍結胚移植よりは新鮮胚移植の方が胚へのストレスが減るためよいのでしょうか)。
②着床環境の改善
2024年2月の移植の前に子宮鏡を実施し問題ありませんでしたが、たて続けに3回陰性(うち2回は正常胚)であることを考えると、子宮側・着床環境にも問題があるのではとの思いもあります。一通り不育および着床不全検査を実施しているのですが、次回移植前に着床環境を整えるためにラパロ(腹腔鏡検査)の実施も検討しているのですが、どうでしょうか。子宮鏡で問題なく、特に卵管水腫などが疑われるわけでもなく原因不明の不妊の場合、ラパロ(腹腔鏡検査)の実施は必要なさそうでしょうか。次回移植前に何か新たにしておくとよい検査はありますでしょうか。GnRHアゴニストを投与し、約2か月間閉経状態にして月経が開始しないまま内膜を作成して移植周期に入る偽閉経療法などは、有効でしょうか。着床環境改善のため、G-CSF子宮内注入を検討する余地はありそうでしょうか。
③着床の窓
これまで全て自然排卵周期で移植をしていることもあり、着床の窓の検査は内膜日付診のみ実施していますが、ERPeak検査を実施し、ホルモン補充周期での移植をしてみた方がよさそうでしょうか。
④顕微授精
これまでは体外受精で13個中11個(2022年11月)、12個中11個(2023年6月)受精していたのですが、今回は16個中6個受精(2024年1月)と受精率がかなり低下したことが気になりました。これは、卵子の質・精子の質の低下が原因である可能性が高そうでしょうか。その場合、これまで全てふりかけで、顕微授精をしたことがないのですが、次回は半数は顕微授精にするなども検討した方がよさそうでしょうか。顕微授精は受精率は高いけれど、その後の発育や胚盤胞到達率、良好胚獲得率、妊娠率などは、ふりかけの方が高い傾向があるという記事や、高齢の場合は胚へのストレスを減らすと言う観点で、精液所見が正常ならば顕微授精よりは体外受精の方がよいというような記事をみたのですが、どうなのでしょうか。
⑤TSH値が2.5μU/mlと若干高めなのですが、チラーヂンSなどで甲状腺ホルモン補充療法を行った方がよいのでしょうか(通院中のクリニックでは、2.5であれば問題ないということで特に何もしていませんが、TSH値が2.5μU/ml以上であれば、甲状腺ホルモン薬を服用するところもあるようで、ギリギリのラインなので気になっています)。

次回を最後の採卵とも考えており、転院も検討の上、できる限りのことをして望めればと思っています。

 

A 

①初期胚(新鮮初期胚、凍結初期胚)か胚盤胞かという議論の前に、③の着床の窓の変化の可能性を否定しておく必要があります。もし着床の窓にズレがあるのでしたら、窓ズレを補正して従来通りの必勝法を試してみます。しかし、着床の窓にズレがないのであれば、これまでの必勝法が通用しないことになり、その段階で初めて①を検討します。その際には、初期胚移植、新鮮胚移植、複数移植のいずれのパターンも行ってみるのが良いでしょう。
②ラパロ(腹腔鏡検査)によって着床環境が整うことを証明した論文はありませんので、私はお勧めしません(お一人の先生がブログでおっしゃっているだけです)。GnRHアゴニスト2か月の偽閉経療法は行ってみる価値はあると思います。ただし、この場合はホルモン補充周期での移植のみが可能です。その他の移植のオプションについては、必ずしもプラスに働くわけではなく、マイナスに働く場合もありますので、①③問題をクリアにしてから検討します。
③上の文面を読んだ際に、最も気になったのは着床の窓の変化の可能性です(前回の「Q&A3895 PGT未実施胚が着床し、PGT正常胚が着床しません」でも言及しています)。子宮内膜日付診の信頼性はほとんどないとして否定された検査ですので、ぜひERPeak検査を行って欲しいと思います。その際、ホルモン補充周期での移植を考えておられるならホルモン補充周期で、自然排卵周期での移植を考えておられるなら自然排卵周期で行います。
④これまで体外受精でしっかり受精していた方の受精率が低下した場合に、偶然の可能性と卵子の老化による可能性があります。念の為、次回の採卵では体外受精と顕微授精を半々にするのが良いでしょう。体外受精と顕微授精のどちらが良いかは、人それぞれです。体外受精の方が良いかた、顕微授精の方が良い方、どちらも同じ方がおられるので、一概にどちらが良いとは言えません。
⑤TSH値が2.5μU/mlであれば問題ありません。ご心配であれば、TSHを再検査してみるのが良いでしょう。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。