Q&A3973 原因不明不育症の対策は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2022.11.10「Q&A3476 43歳、第二子妊活、正常胚で流産」では、回答いただきありがとうございました。

 

質問時の流産で遺残胎盤→子宮仮性動静脈瘤?が出来てしまい、hCGが陰性化し血流が確認出来なくなるまでに10ヶ月、その後慢性子宮内膜炎にもなり陰性化に2ヶ月、残り1つの正常胚を移植出来たのが流産から1年後でした(遺残胎盤は偶発的とは言え、この年齢で1年を無駄にしたのは非常にもどかしかったです)。


移植は、前回同様SEET法で3BBの正常胚をリプロ東京にて移植しました。ERPeak検査は未実施です。判定日hCG 73.5、その後出血があり市販の検査薬でも濃くならなかったため、3日後に受診、再判定でhCG 32、化学流産となりました。
 

その際に前回正常胚で流産していることと、第一子の時にヘパリン+バイアスピリンで出産していたため、同様の対策を取るべきか悩み、移植前から受診する度に貴院の先生方に質問しました。おそらく4〜5名の先生にご意見伺いましたが、ほとんどの方が「不要では?」とおっしゃっており、私も育児と仕事をしながら12時間ごとにヘパリンを打つのは厳しいという思いもあり、バイアスピリンのみで移植しました。
 

これで凍結胚はなくなり、新たに採卵するには金銭的、時間的に厳しいので諦めていましたが、陽性反応があっただけに悔しい気持ちがあり、夫と相談して45歳のうちに産める残り数ヶ月をタイミングでやっていこうということになりました。もし妊娠した場合は次は大事をとってヘパリン+バイアスピリンで対策すると決めておりました。
 

昨年末に排卵検査薬を使いタイミングをとったところ自然妊娠し、4週0日にhCG 220を確認、当日夜からヘパリン+バイアスピリンを開始、5週4日胎嚢確認、6週4日胎芽+心拍確認、その2日前から少量の出血が始まり、少しずつ増えてきたため心配になり6週5日にバイアスピリン、ヘパリンを自己判断で中止、一昨年の大量出血→進行流産→遺残胎盤の経験から流産の場合は早めに診断してもらいたく、翌日近所の産婦人科に診てもらったところ心拍が止まっておりました。その3日後貴院で流産手術、流産胎児絨毛検査で46,XXの染色体正常女児でした。

①45歳1ヶ月での妊娠だったので、流産は染色体異常が原因だろうと思っていたのにまさかの染色体正常で、驚きと同時にもしかしてヘパリンを途中でやめたのがいけなかったのではないかという疑念が浮かびました。心拍が止まったタイミングとヘパリンをやめたタイミングが偶然かもしれませんがぴったり合います。不育症の人がヘパリンをやめて、すぐにそれが原因で心拍が止まるということはありますか。元々ヘパリンをやると決めていたため、妊娠前に不育症の検査はせず、5週目にプロテインSの検査のみ行い、数値73%で正常だったのでヘパリンはやめてもいいのではないかと結果説明をしていただいた先生から言われており、自らヘパリンを選択した経緯もあるので、途中でやめても問題ないと判断してしまいました。とても後悔しております。
②今回ヘパリンを打ったところが毎回赤く腫れ、痒みやしこり、アザができ、6週目にして既にお腹に打つところがなくなりました(そこまで酷くなければ出血が増えてもヘパリンは続けていたと思います)。今回皮膚症状が酷かったのはヘパリンが体質的に合わなかった=あまり効果が得られなかったということは考えられますか。第一子の時は16週まで続けて、痒みやしこりなどほとんどありませんでした。
③正常胚3回連続で流産と化学流産したことになりますが、正常胚が流産する原因として不育症、PGT-Aのダメージ以外に遺伝子のエラーがあると貴院の先生からお聞きしました。染色体は設計図のようなもので、設計図が正しいだけでは家が建たないのと同じで、その後の遺伝子発現の段階で致命的なエラーがあれば流産してしまうことはある、というお話でした。松林先生はこのお話についてどのように思われますか。これも広い意味での原因不明不育症ということになるのでしょうか。サプリはビタミンD、葉酸、最後の自然妊娠の際は陽性判定後からは出血予防にルトラールを飲んでいました。
④年齢的にもう諦めていますが、もう一度試すとしたら次はどのような対策を取れば良いと思いますか。最後の診察の際、免疫グロブリンとピシバニールを勧められました。

 

A 第1子出産後、正常胚で2回流産(+化学流産1回)、不育症の対策実施済ですので、第2子原因不明不育症になります。

①そもそもヘパリンを使う積極的な理由はありませんでしたので、ヘパリン中止と心拍停止に因果関係はないものと考えますが、心情的にはつながりを求めてしまうのはよく理解できます。もし、次回妊娠された場合には、(後悔しないために)ヘパリンを継続するのはアリだと思います。
②しかし、とても気になるのは、ヘパリンに対する皮膚症状です。このような症状はアレルギー反応であり、「アレルギー反応による胎児拒絶(=流産)」の可能性もあります。このような場合には、ヘパリンは使わない方が良いです。なお、当初(第1子)問題なく、後にアレルギー反応が生じることは、しばしばあります。
③遺伝子のエラーの可能性はもちろんありますが、証明することはできません。したがって、この件に関するデータはありません。あくまでも想像上の話です。
④原因不明不育症の対策に定まったものはありませんので、不育症認定医(専門医)のいる各施設で独自の治療方針が行われています。リプロダクションクリニックでは、免疫グロブリン(IVIG)あるいはピシバニール+プレドニン少量継続のどちらか、あるいは両方を行い、それなりの成功率を出していますが、どの治療が誰に有効かは不明ですので、やってみるしかありません。その際、②の理由から、ヘパリンは使わない方が良いでしょう。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。