☆テストステロン使用後の精液所見の回復は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、テストステロン使用後の精液所見の回復に関する検討です。

 

Fertil Steril 2023; 120: 1203(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.09.016

Fertil Steril 2023; 120: 1173(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.10.012

要約:2018〜2022年テストステロン使用歴があり、乏精子症または無精子症のため不妊クリニックを受診した男性45名(32〜45歳)を対象に、テストステロンを中止し、クロミフェン50mg隔日+hCG2000単位週3回を最低3~6か月間投与した後の精液所見について後方視的検討を行いました。当初、23名(51.1%)が無精子症と診断されました。クロミフェン+HCG治療期間の中央値は5か月で、当初無精子症だった男性のうち18名で追跡調査が可能であり、6名が重度乏精子症(<500万/nL) 、6名が乏精子症(<1,500 万/cc)、1名が正常精液所見に改善し、5名は無精子症のままでした。フォローアップ電話で確認が取れた24組のうち9組(38%)で妊娠が成立しました。このうち3組は生殖補助医療、6組は自然妊娠でした。ロジスティック回帰分析では、精液所見のパラメーターの改善や妊娠の成功に寄与する有意な因子は特定できませんでした。

 

解説:テストステロンは、思春期遅発、性腺刺激性機能低下症、原発性性腺機能低下症、下垂体視床下部機能不全、原発性精巣不全などで使用されます。テストステロンには筋肉増強作用があるため、欧米ではスポーツ選手で秘密裏に使用されることがあります(男性6.4%、女性1.6%)。特に、重量挙げ選手、格闘家、警備員がよく使用しています。テストステロン製剤は、体内で生成されるテストステロン合成を阻害するため、性機能障害(精巣萎縮、精子数減少、ED、不妊など)、心血管疾患、内分泌異常、精神機能障害、肝毒性などが起こります。本論文は、テストステロン使用後の精液所見の回復に関する後方視的検討を実施したものであり、クロミフェン50mg隔日+hCG2000単位週3回治療により一部の方で精液所見が改善されましたが、多くの方で男性不妊の状態が継続していました。テストステロン使用後の精液所見の低下は、想像以上に持続し、全く改善しないことも少なくありませんので、安易な使用は慎むべきだとしています。

 

コメントでは、米国では300万人の男性がテストステロンを使用していますが、そのデメリットについての啓蒙活動(教育)が不足していることを危惧しています。