☆子宮形態異常におけるドナー卵子による妊娠成績 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、子宮形態異常におけるドナー卵子による妊娠成績を検討したものです。

 

Fertil Steril 2023; 120: 850(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.06.029

Fertil Steril 2023; 120: 813(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.014

要約:2000〜2020年に実施した卵子提供プログラムによる子宮形態異常468名と正常子宮57,869名の妊娠成績をバレンシアIVIRMAデータベース(スペインの大学関連12施設)を用いて後方視的に検討しました。結果は下記の通り(オッズ比(95%信頼区間)で表示、有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

全症例     子宮形態異常       正常子宮      P値

臨床妊娠率 50.7%(46.8〜54.6)= 51.1%(50.8〜51.4)   NS 

流産率   19.6%(16.6~22.9)> 16.7%(16.5~16.9)   0.006

出産率   36.7%(32.8〜40.7)< 38.1%(37.8〜38.4)   0.031

NS=有意差なし

 

サブグループ解析(正常子宮と比較)

      正常子宮 完全双角子宮 T状子宮 低形成子宮 完全中隔子宮 部分中隔子宮 単角子宮

臨床妊娠率  51.1%   53.1%    46.4%   42.1%    49.1%     58.0%   37.2%

流産率    16.7%   16.9%    17.9%   22.2%    20.5%     26.5%   23.8%    

出産率    38.1%   40.6%    38.9%   17.7%     39.8%      36.9%  16.7%

 

      正常子宮  子宮形態異常手術あり  子宮形態異常手術なし

臨床妊娠率  51.1%  =   52.2%    =     48.1%

流産率    16.7%  <   22.3%     >    17.8%  

出産率    38.1%  =   38.5%     >     33.1%

 

解説:子宮形態異常は、一般集団で5.5%、不妊症で8.0%、不育症で13.3%、不妊症+不育症で24.5%に認められます。子宮形態異常と妊娠成績を分析した過去の研究では、子宮因子と卵子因子が混在していたため、子宮形態異常による純粋な悪影響を知ることができませんでした。しかし、ドナー卵子を用いた研究では、卵子因子を除外できるため、子宮因子のみを検討することができます。本論文はこのような背景のもとに行われた研究であり、正常子宮と比較べ、子宮形態異常の出産率が有意に低く、流産率が有意に高いことを示しています。また、低形成子宮と単角子宮の患者の出産率は有意に低くなっていました。また、子宮形態異常の方でも手術を行うと出産率は正常子宮と同等になることも示しています。

 

コメントでは、ドナー卵子を用いて子宮因子の影響のみに絞った本論文を高く評価しています。しかし、子宮形態異常率が0.8%と低いことから、子宮形態異常が過小評価されている可能性が否定できないとしています。また、20年間という長い研究期間により症例数は増えたものの、画像診断も改善されたため、最初と最後では対象患者の質が異なっている可能性もあります。術式の詳細に関する記載はありませんが、最初と最後では術式も異なっている可能性があるとしています。

 

子宮形態異常では流産率が高くなるというのがこれまでの常識でしたが、本論文を見る限りどのタイプの子宮形態異常でも流産率はほとんど変わりません(統計学的には部分中隔子宮のみ流産率が有意に高い)。子宮形態異常がどれほど妊孕性に関与しているかについては明らかではありませんので、今後の更なる検討が必要です。