Q&A3776 micro-TESE後の男性ホルモン低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 夫婦共に31歳、夫は28歳の時に非閉塞性無精子症と診断され、クラインフェルター症候群でした。リプロ東京でmicro-TESEをしていただき、私もリプロに通い、移植8回目で妊娠し、現在妊娠13週に入ったところです。

手術後から夫は、テスチノンデポー筋注250mg 1mlを3〜4週間に1度打っています。少し前までは効果が切れる頃〜注射を打った直後が症状がひどく、その後徐々に回復するということを繰り返していましたが、最近では打ってもなかなか改善しません。夫の症状は、意欲低下、倦怠感、不安、不眠、イライラ、頭痛などがあり、鬱のような症状が強いと感じています。子供ができてから「こんな体で子育てができる気がしない」と毎日のように不安を言っており、何とかしたいと思っています。リプロの先生からは、この注射以外の方法はなく、打つ間隔を短くすると多血症になる可能性があるので、これまでの間隔で打ってほしいと言われました。

①日本のどの病院に行ってもこれ以上の治療法はないんでしょうか。素人考えですが、半分の125mlを2週間に1回にすれば、気分の浮き沈みが小さくなるのではと思っています。その他、貼り薬や塗り薬もあるとネットで見たのですが、効果が薄いのでしょうか。
②日本では未承認でも海外では使用されている薬もある(ウンデカン酸テストステロンなど)と知りました。承認に向けて何かできることはないでしょうか。
③今まで睡眠薬は使用したことがなく、精神科は本人が乗り気ではないため、受診したことがありません。症状を軽くするためにできることはあるでしょうか(食生活など?)。

 

A 私は、泌尿器科医ではありませんので、医師として、TESEや男性ホルモン(テストステロン)補充療法の経験はありません。したがって、論文を調べてみました。

 

Andrology 2020; 8: 155(イタリア)DOI: 10.1111/andr.12774

要約:テストステロン補充療法は、血中テストステロン濃度を生理学的範囲まで上昇させることにより、性欲減退、勃起不全、抑うつ気分、貧血、筋肉および骨量の減少などのテストステロン欠乏症の症状や兆候を改善することです。テストステロン補充療法は70年間にわたって行われており、薬物動態と患者のコンプライアンスを改善するために、数多くの製剤が開発されてきました。しかし、さまざまなガイドラインで示されている推奨事項は、限定的なランダム化試験、非ランダム化試験、観察研究に基づいています。欧米で使用が承認されている製剤には、経口薬、点鼻薬、皮下インプラント、経皮薬、筋肉注射があります。 心不全の悪化などのエンドポイントに対するテストステロン補充療法の影響に関する証拠は示されておらず、心不全の既往歴のある高齢男性におけるテストステロン補充療法には慎重なアプローチが必要であることが示唆されています。 医師は、最も安全で最も効果的な治療を提供するために、各患者の固有の特性を考慮して管理に必要な微調整を行うことが必要です。

 

micro-TESE後の男性ホルモン低下に対する治療ですが、日本では現在テストステロンの筋肉注射製剤しかありませんので、250mgを3〜4週間に1度打つのがスタンダードな治療です。海外では、100mgの製剤がありますので、毎週あるいは隔週で打つこともできます。その他、多くのルートからの薬剤がありますので、その方に合った薬剤の選択、かつ微調整が可能です。

 

①日本全国、認可された薬剤しか使えませんので、どの病院でも同じ治療になります(それが日本の保険医療の良いところでもあり悪いところでもあります)。男性ホルモン値が大きく増減するのが良くない可能性もありますので、125mgを2週間に1回投与するのも良いかもしれません。その他の薬剤は日本では未承認です(2〜3年前までは経口薬がありましたが、製造中止になりました)。
②残念ですが、私たちにできることは何もありません(実際に存在していた経口薬が製造中止になってしまったという経緯があります。女性にも使い道があり、とても使い勝手が良かったのですが、残念としか言いようがありません)。
③睡眠薬は精神科でなくても処方できます。一般の内科(お近くの町医者)を受診してみてはいかがでしょうか。本件は、生活習慣で変えられる類のものではありません。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。