本論文は、子宮内膜症女性は診断がつく前から妊孕性が低下していることを示しています。
Hum Reprod, 2023; 38: 1520(フィンランド)doi: 10.1093/humrep/dead120
要約:1998〜2012年に手術により子宮内膜症の診断を受けた生殖年齢(15~49歳)の女性21,620名を対象に、診断を受ける前の出産に関する情報を国家データを用いて調査しました。なお、内膜症診断までの期間が間もない1980〜1999年生まれの女性3,286名を除外し、18,324名を検討対象としました(卵巣子宮内膜症6384名、腹膜子宮内膜症5789名、深部子宮内膜症1267名、その他の子宮内膜症4884名)。年齢と居住地が一致し、子宮内膜症の臨床診断または手術診断がなされていない35,793名を対照群としました。追跡調査は15歳から開始し、最初の出産、避妊手術、両側卵巣摘出術、子宮摘出術の時点、子宮内膜症の手術診断のいずれか早い方で調査終了としました。子宮内膜症の手術診断の中央値年齢は35.0歳。 結果は下記の通り。
内膜症なし 内膜症あり
総数 卵巣 腹膜 深部
基準日までの出産率 66.3% > 40.2% 44.1% 39.4% 40.8%
初回出産時年齢 25.5歳 = 25.5歳 25.8歳 >25.0歳 > 24.8歳
第2子出産率 2.16 > 1.93 1.88 < 1.98 < 2.04
100人年当たりの出産率 5.21 > 2.64 2.77 2.74 2.90
解説:子宮内膜症と不妊の関連は以前より明らかにされていますが、内膜症の診断以前からの妊孕性に関する検討はこれまでなされていませんでした。臨床症状から内膜症の疑いを判断することはできますが、子宮内膜症の確定診断は、腹腔鏡などの手術的診断です。しかし、全身麻酔や入院が必要になり、かつ侵襲的な腹腔鏡検査(手術)はすぐには行われません。そこで、内膜症の診断には遅れが生じると考えられています。本論文は、このような背景のもとに行われた国家規模の検討であり、内膜症女性は診断がつく前から妊孕性が低下していることを示しています。
注目すべきは、内膜症の有無に関わらず、初回出産時平均年齢は同じ(25.5歳)であるけれども、第2子出産率は内膜症女性で低下しています。内膜症の診断は平均35.0歳であるため、この10年の間に内膜症が進行し、妊孕性低下をもたらしているものと考えます。また、卵巣内膜症で最も妊孕性低下が見られ、腹膜内膜症、深部内膜症の順に妊孕性が少しだけよくなっています。非常に興味深いデータを示した研究だと思います。