☆子宮内膜症で流産率増加!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、子宮内膜症で流産率が増加することを示した国家規模のコホート研究です。

 

Fertil Steril 2023; 119: 826(デンマーク)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.042

Fertil Steril 2023; 119: 836(ブラジル)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.012

要約:1957〜1997年に生まれ子宮内膜症と診断された女性29,563名と子宮内膜症のない女性295,630名の過去の流産歴について国家規模のデータを元にロジスティック回帰分析を行いました。なお、流産は妊娠22週未満の生殖ロスと定義しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

子宮内膜症   あり    なし   オッズ比(95%信頼区間) 妊娠歴で補正後オッズ比(95%信頼区間)

流産なし    75.1%   77.7%   1.00            1.00

流産1回    18.9% > 17.3%   1.13(1.09〜1.17)     1.37(1.32〜1.42)

流産2回    3.9%  > 3.5%   1.18(1.10〜1.26)     1.75(1.62〜1.89)

流産3回以上  2.1%  > 1.5%   1.44(1.31〜1.59)     2.57(2.31〜2.85)

 

子宮内膜症   あり    なし   オッズ比(95%信頼区間) 

反復流産    1.5% > 0.99%   1.52(1.36〜1.71)     

 第一子    0.8% > 0.44%   1.80(1.54〜2.10)    

 第二子    0.7% > 0.55%   1.30(1.10〜1.52)     

 

また、サブグループ解析では、このほかに、男児出産後、 出産時合併症後、30歳未満で3回以上の流産を経験している場合に、子宮内膜症と流産の有意な関連を認めました。

 

解説:子宮内膜症と流産や不育症との関連は過去にも報告がありますが、本論文はその関連を示した過去最大数の国家規模の研究であり、流産数が増加するにつれてその関連性が強まることを示しています。子宮内膜症と流産や不育症の病態生理学的メカニズムは免疫調節異常に起因すると考えられます。両者に共通するのは、慢性炎症、免疫修飾、自己免疫です。

 

コメントでは、両者の共通点が見出せても、本論文はその解決策(治療法)まで言及するものではありません。おそらく免疫的治療が有効である可能性がありますが、今後の研究課題であるとしています。