Q&A3609 ラカントSの安全性は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q HbA1cの値が上がってきたのでラカントSを使い始めていたのですが、先日「カロリーゼロの甘味料、心臓発作や脳卒中リスク増大と関係 米研究 CNN」の記事があり、今は使うのをやめています。。血栓ができやすくなるということは、不育症の方にも良くないのでしょうか。先生の見解を教えていただけると嬉しいです。

 

A ご指摘の論文は、こちらです。

Nat Med 2023; Feb 27(米国)doi: 10.1038/s41591-023-02223-9

要約:人工甘味料と心血管代謝疾患のリスクについて3つのコホート研究を行いました。血中エリスリトール濃度は、心筋梗塞または脳卒中などの心血管イベントの発生(1,157名、3年間調査)リスクと関連していました。糖尿病など心疾患の危険を伴う基礎疾患がある方で定期的に心臓評価を受けている米国2,149名と欧州833名を対象に、血中エリスリトール濃度と心血管イベントの発生を検討したところ、濃度下位1/4と比べ上位1/4で、それぞれ 1.80倍(1.18〜2.77)と2.21倍(1.20–4.07)の有意差を認めました。 エリスリトールは、in vitroで血小板を活性化し、in vivoで血栓形成を促進しました。 前向きパイロット介入研究では、健康なボランティア8名のエリスリトール摂取は、血中エリスリトール濃度を劇的に増加させ、その効果は3日間以上持続しました。同時に、in vitroで血小板を活性化させ、in vivoで血栓症の可能性をもたらしました。

 

解説:1848年にスコットランドの化学者、ジョン・ステンハウスがエリスリトールを発見しました。エリスリトールは、トウモロコシに含まれるデンプンから、酵素や発酵の過程を経て生成できます。商標名は「Zerose」。1990年以降、エリスリトールは飲食物の調味料や甘味料として安全に使用可能であるとし、60を超える国の政府機関で承認され、さまざまな飲食品に用いられています。エリスリトールは血液中に吸収されますが、大部分(80~90%)は24時間以内に尿中に排泄されます。エリスリトールの摂取後の下痢などの消化器系の症状を発生しない許容範囲内の摂取量の上限は、体重1kgにつき成人と子供とでそれぞれ0.78gと0.71gであることが判明しました。これを受け、欧州食品安全機関は、体重1kgにつき0.6gまでを推奨しています。

 

本論文は、糖尿病など心疾患の危険を伴う基礎疾患がある方では、血中のエリスリトール濃度が高い場合に、心筋梗塞や脳卒中のリスクがおよそ2倍になることを示しています。なお「ラカント」=「エリスリトール+羅漢果(ラカンカ)」です。本論文は、エリスリトールやラカントの安全性に疑問を投げかけた初めての論文です。今後、エリスリトールの長期的な安全性を評価する研究が必要です。現在のところ、本論文しかありませんので結論は言えませんが、ラカント摂取は控えておた方が良いかもしれません。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。