本論文は、米国における卵管妊娠治療の人種間による違いを調査したものです。
F&S Rep 2022; 3: 311(米国)doi: 10.1016/j.xfre.2022.08.009
F&S Rep 2022; 3: 298(米国)doi: 10.1016/j.xfre.2022.10.001
要約:2010〜2019年に卵管妊娠の手術治療を行なった7791名を対象に、全米のデータベースを用いて人種間による術式の違いを後方視的に検討しました。内訳は、白人44.3%、黒人24.5%、ヒスパニック21.8%、アジア人9.4%です。腹腔鏡手術は、2010年に81.4%でしたが、年々増加し2019年には91.0%になりました。また、卵管切除術は、2010年に80.6%でしたが、年々増加し2019年には94.7%になりました。人種による各手術の修正オッズ比は下記の通り(白人を1.0として、有意差のみられた項目を赤字表示)。また、年次による人種間の違いはありませんでした。
腹腔鏡手術 卵管切除術
白人 〜 〜
黒人 0.52(0.45〜0.61) 1.78(1.43〜2.23)
ヒスパニック 0.52(0.44〜0.61) 1.54(1.24〜1.93)
アジア人 1.18(0.90〜1.55) 0.73(0.56〜0.95)
解説:異所性妊娠(子宮外妊娠)は全妊娠の1.5〜2%にみられ、90%は卵管妊娠です。治療は状況に応じて、経過観察、手術療法、薬物療法が実施されます。本論文は、米国における卵管妊娠治療の人種間による違いを後方視的に調査したものであり、白人と比べ、黒人とヒスパニックで腹腔鏡手術が有意に少なく、卵管切除術が有意に多いことを示しています。すなわち、開腹手術で卵管摘出により1回で済ませてしまおうとする意図が働いているようです(あるいは保険未加入のため疾患の発見が遅れる)。また、アジア人では腹腔鏡手術により卵管を残そうとする意図が見えます。
コメントでは、卵管妊娠治療の歴史的な背景を述べています。1884年に世界で初めて卵管切除術が実施され、72〜90%あった卵管妊娠による死亡率が、1990年には0.14%に激減しました。1953年に卵管を温存する卵管形成術が行われるようになりましたが、卵管形成術の場合には卵管妊娠の持続が5〜29%に認められるというデメリットがあります(つまり妊娠部分が取りきれていない)。また、卵管形成術によりどれほど妊孕性が温存できるかは不明で、再び卵管妊娠に至るケースも多く、さらに1978年に体外受精が可能になったため、卵管形成術よりも卵管切除術が選択されるようになりました。