☆妊娠中のアセトアミノフェン服用とお子さんのADHDとの関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊娠中のアセトアミノフェン服用とお子さんの注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連について示しています。

 

JAMA Pediatr 2020; 174: 1073(カナダ)doi: 10.1001/jamapediatrics.2020.3080

要約:2007〜2009年にカナダのシャーブルック大学病院で出生した赤ちゃんで出産後最初の赤ちゃんの便の採取が可能だった345名を対象とし、6〜7歳検診時に医師によるADHD診断を、9〜11歳検診時にMRI検査による安静時の脳の前頭頭頂〜感覚運動野のネットワーク解析を行い、胎便中のアセトアミノフェン濃度とADHDの関連について前方視的に検討しました。199例(57.7%)の胎便からアセトアミノフェンが検出され、33例(9.6%)がADHDと診断されました。アセトアミノフェン検出下限値は2 ng/g、アセトアミノフェンが検出された方の50パーセンタイル(69 ng/g)をカットオフ値とし、アセトアミノフェン高値と低値に分けて検討しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

アセトアミノフェン  ADHDあり  ADHDなし 修正オッズ比(信頼区間) P値

検出なし       8名(5.5%)  138名    〜          〜

検出あり       25名(12.6%) 174名   2.43(1.41-4.21)  <0.001

 低値        9名(8.5%)  97名    1.44(0.79〜2.63)  NS

 高値        16名(17.2%) 77名    4.10(2.41-6.95)  <0.001

NS=有意差なし

 

また、アセトアミノフェンが検出されたお子さんのMRIで、前頭頭頂〜感覚運動野のネットワーク数が有意に低下しており、アセトアミノフェンと多動性の関連を間接的に示していました。

 

解説:ADHDなど自閉症関連疾患(ASD = Autism Spectrum Disorder)は米国では54人に1人の頻度で認められ、遺伝的、環境的、生物学的要因が関与するとされていますが、真の要因は明らかではありません。アセトアミノフェンは妊娠中に服用可能な唯一の鎮痛剤とされているため使用頻度が極めて高く、米国で65%、欧州で50%以上妊婦がアセトアミノフェンを服用しています。最近のメタアナリシス8論文)では、アセトアミノフェン服用とADHDの関連を示唆しています。しかし、これらの報告ではアセトアミノフェン服用歴が患者さんの自己申告によるため不正確であり、FDAや母子医療関連学会では妊娠中のアセトアミノフェン服用に関する警告をまだ出していません(妊娠中の服用を推奨したまま)。2019年、直接的な根拠として初めて、出産時に採取した臍帯血中のアセトアミノフェン濃度とADHDの関連を示す論文が発表されました。しかし、アセトアミノフェンの半減期は3時間弱ですから、臍帯血中のアセトアミノフェンは分娩直前に服用した薬剤のみが反映されています。本論文は、出産後最初の胎便中のアセトアミノフェンを計測しており、妊娠後半2/3の期間に服用した薬剤が胎児を通じて腸管の胎便中に蓄積したものを反映しています。したがって、妊娠中期以降に母体が服用したアセトアミノフェンとお子さんのADHDとの間には明確な関連があることを示しています。ADHDの診断には主観的な要素が含まれますので、MRIの所見を加味したことで、より強力な根拠を示しています。

 

最新のレビュー(Cureus 2022; 14: e26995)では、本論文以外にクオリティーの高い16論文を紹介し、全てが妊娠中のアセトアミノフェン服用とASDの関連を示唆しています。しかし現時点では仮説の段階に過ぎず、この仮説を証明するためには、さらに質の高い研究を迅速に行う必要があるとしています。

 

コメント:アセトアミノフェンは妊娠中に服用可能な唯一の鎮痛剤とされていますが、それを否定する論文が最近相次いで発表されています。最も信頼性のある論文が今回ご紹介した論文です。現在のところ、妊娠初期のアセトアミノフェン服用は問題ないと考えられますが、妊娠中期以降のアセトアミノフェン服用は用量依存性にお子さんのADHDと関連しますので、必要最小限に留めるべきだと思います。他の薬剤と同様に、薬剤は安全だから使うのではなく、必要だから使うというスタンスを崩さないことが肝要です。