新しいがん治療:光免疫療法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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新しいがん治療である光免疫療法の第一人者、関西医科大学光免疫医学研究所所長「小林久隆」先生のお話をご紹介します。

 

医師協Mate2022; 332: 7(日本)

要約:がん治療の理想は、正常細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを壊すことです。しかし、抗癌剤や放射線治療では、少なからず正常細胞のダメージが起こります。光免疫療法では、癌細胞に特異的な抗体にIR700を結合させたものを点滴で投与します(約2時間)。抗体が癌細胞に結合した頃(翌日)に、近赤外線(690nm)を照射すると、IR700が化学反応を起こし、抗体が結合している細胞内に水が入り込み、細胞が膨張して破裂するというもので、照射後1分以内に癌細胞が死滅します。壊れた癌細胞からは大量の癌抗原が放出され、自らの免疫細胞が癌細胞に対する細胞性免疫を獲得します。なお、近赤外線の照射は体表面から2cmまでなので、それよりも深い部分には光ファイバーを挿入して身体の中から照射します(全身麻酔で1か所につき5分照射)。治療効果を見ながら、4週間あけて最大4回の治療になります。抗体を利用した薬剤には分子標的薬もありますが、ターゲット以外にも毒性があるため、オフターゲット効果による副作用があります。しかし、光免疫療法で利用するIR700には何の作用もありませんので、抗体が結合した細胞だけがターゲットになります。光免疫療法は、切除不能な頭頸部癌に対して、2020年9月に日本で初めて承認され、すでに100回以上の治療が行われています。その他の癌でも治験が始まっています。

 

解説:小林久隆先生は、京都大学医学部を卒業し放射線科医になり、米国NIHで癌治療の研究を行い、日本に戻って来られました。多くの癌への応用が可能な光免疫療法は非常に魅力的な治療だと思います。日本発の治療でもあり、研究の進展に期待が高まります。