Q&A3122 アルギニン+ロイシンで着床率アップ? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 胚移植に向けて、少しでも内膜が厚くなるようアルギニンのサプリを飲もうと思っています。

先日、ネットでマウスの胚盤胞の着床に関する研究を見つけたのですが、アルギニン添加だけでは着床率が低くなるが、ロイシンというものを同時に添加したものは着床率が有意に高かった、というようなものでした。ヒトも同じように、アルギニンだけではなくロイシンも一緒に摂取した方が良いのでしょうか。
 

A どのようなルートでこの記事を見つけたのかわかりませんが、今はネット社会ですので、英文論文の検索サイトを見なくても、だれかがツイートしたり、インスタやブログで紹介しているのだと思います。私が検索したところ、マウスでは1970年代からロイシンに関する研究が行われています。しかし、ヒトでの根拠は皆無です。

 

①Ups J Med Sci 1979; 84: 9()doi: 10.3109/03009737909179136

要約:マウスのトロホブラスト(胎盤)をグルコース、アルギニン、ロイシンを様々な濃度で調整し培養しました。これら3種類共に欠如した培養液ではトロホブラストの発育(浸潤)は認められませんでした。これら3種を添加すると、再びトロホブラストの発育(浸潤)が生じました。

 

論文②Dev Biol 2012 15; 361: 286()doi: 10.1016/j.ydbio.2011.10.021

要約:アルギニンとロイシンは、マウスのトロホブラストの発育(浸潤)に必須です。これには、mTORC1依存性および非依存性があります。

 

解説:動物実験のデータはある程度は参考になりますが、全く参考にならない場合もあります。ヒトでの証明がなされない限りは、手を出すべきではないと思います。ロイシンはアミノ酸なので問題ないとは思いますが、根拠はありません。

 

参考までに、、、サリドマイドはつわりの薬剤として発売されました。動物実験では胎児への影響は全くありませんでしたが、ヒトでは妊娠初期の器官形成期に服用した全ての女性の赤ちゃんにアザラシ症が発症しました。このため、サリドマイドは発売中止になりました。それ以降、つわりに対する薬剤の研究が滞りました。「つわりの時期=胎児に危険な時期」の薬剤開発はリスクを考慮すると開発コストが赤字になってしまうからです。

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。