ホルモン補充周期で卵胞が発育した場合 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ホルモン補充周期で卵胞が発育した場合に、自然排卵周期に切り替えた際の妊娠成績を後方視的に検討したものです。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1542(中国)doi: 10.1093/humrep/deab059

要約:2017〜2019年ホルモン補充周期による融解胚移植を実施する2256周期を対象に、途中で卵胞発育が見られ(14mm以上)た場合に自然排卵周期に切り替えて胚移植を実施しました(195周期)。卵胞発育が見られず(10mm未満)通常通りホルモン補充周期で胚移植できた2061周期妊娠成績の比較を後方視的に検討ました。なお、患者背景をマッチさせた場合の比較も実施しました(症例176周期、対照329周期)。ホルモン補充周期は、まずプロギノーバを4〜6mgで開始し、子宮内膜7mm以上、最大卵胞径10mm未満、E2>200、P<1.5で、黄体ホルモン製剤を開始します。一方、10mm以上の卵胞が認められた場合には、2〜3日後に再検査を行い卵胞発育が停止あるいは卵胞が消失した際には通常通りのホルモン補充周期とし、卵胞が14mm以上に発育した際には自然排卵周期に切り替えました。なお、この際にもプロギノーバは継続しました(中止による内膜剥離を避けるため)。LH>20になってからは毎日診察を行い、排卵日を確認しました(最大卵胞径が18mm未満で排卵する場合があるため)。あるいは、最大卵胞径18mm以上、子宮内膜7mm以上、E2>200、P<1.5hCG10000単位を投与し排卵を惹起しました。また、排卵日の翌日から黄体ホルモン補充を行いました。ホルモン補充周期中に卵胞発育するリスク因子は、年齢(1.05倍)、FSH値(1.06倍)と有意な正の相関があり、BMI(0.92倍)、AMH(0.66倍)、高用量E2製剤(0.53倍)と有意な負の相関がありました。通常のホルモン補充周期と比べ、ホルモン補充周期で卵胞が発育し自然排卵周期に切り替えた際の臨床妊娠率(33.4 vs. 44.9%)、出産率(24.9 vs. 39.2%)は有意に高く、流産率(25.5 vs. 12.7%)は有意に低くなっていました。

 

解説:ホルモン補充周期で卵胞が発育することが時にあり、多くの施設では移植周期がキャンセルされます。このような場合に、自然排卵周期に切り替えて移植を実施することも可能ですが、その際の妊娠成績に関する報告はこれまでありませんでした。本論文は、ホルモン補充周期で卵胞が発育した場合に、自然排卵周期に切り替えた際の妊娠成績を後方視的に検討したところ、妊娠成績が良好であったことを示しています。つまり、移植周期をキャンセルする必要はないとしています。また、ホルモン補充周期中に卵胞が発育するのは、高齢、高FSH値、低AMH、低BMI、低用量E2製剤でした。したがって、E2製剤は高用量で開始するのが良いとしています。

 

ただし、本論文は後方視的検討であるため、結論を導くことができませんので、ご注意ください。また、完全に排卵してしまった(すり抜け排卵)場合には、排卵日が特定できなければ胚移植はキャンセルになります。