Q&A2792 海外在住、6回採卵、私にベストな刺激法は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 43歳、海外在住、妻のみ実家のある地方で妊活中


6回採卵、新鮮胚移植4回全て陰性、胚盤胞2個(5AB、3AA)凍結

ホルモン補充周期で5ABを移植し、現在判定待ち


1回目の採卵のみ新鮮精子を使用、2回目以降は凍結精子を使用しています。年齢的にも治療のやめ時を考えなくてはならず、最後にするのなら夫に一時帰国してもらい(日本人、2週間の自主隔離機関が必要)、リプロでの治療で締めくくろうかと考えています。スケジュール調整等に時間を要するため、この場で事前に松林先生のご意見を少しでもうかがえたらと思います。免疫系、甲状腺の異常なし。25OHビタミンD値、子宮鏡、慢性子宮内膜炎検査問題なし。受精は全てPiezo ICSIで行っています。

採卵1回目:CD3 LH 7.5、E2 37、FSH 14.2、AFC左に2個、クロミッド50mg 5日間(D3~D7まで)+HMG150x5(D5、D7、D8、D10、D11)+セトロタイド0.25mg(D10、D11)+HCG5000単位(D11)、CD8 左15mm×2個、CD10 LH 7.6 E2 589 PROG 0.19 卵胞 20㎜×1、17㎜×1、小さい卵胞が一つ出現、CD11 LH 1.9 E2 446 PROG 0.16、育った2つはいい感じとしか聞き取れなかった、前日現れた1つが15mmにまで成長、採卵数左3個(G1 x 1, G2 x 1, G3 x 1)、受精3/3、分割3/3、新鮮精子:濃度9000万/ml、運動率60%
 4日目 桑実胚→5日目 5AB(G1)▶︎凍結
 4日目 10cell→5日目 3AA(G2)▶︎凍結
 4日目 5cell→5日目 桑実胚E(G2)▶︎廃棄
*廃棄された5日目桑実胚Earlyも6日目まで培養か凍結してもらえばよかったと後々後悔。

 

採卵2回目(1周期あけてから前回の刺激法で実施):CD1 LH 5.7、E2 19、FSH 9.1、AFC左に3〜4個、クロミッド50mg 5日間(D3~D7まで)、HMG150x4(D5、D7、D9、D11)+セトロタイド0.25mg(D11、D12)+HCG5000単位(D12)、CD8 左2個のみ成長「前回より育ちが遅い」とのコメントのみ、CD11 LH 8.1 E2 446 PROG 0.14 卵胞 21x16.5㎜×1、16㎜×1、CD12 LH 3.4 E2 583 PROG 0.07 卵胞 25㎜×1、20㎜×1、採卵数1個(G2 ) 受精1/1、分割1/1、凍結精子:濃度9000万/ml、運動率60%
 4日目 12cell(G1)▶︎新鮮胚移植→陰性
*D12に25㎜まで育っていた卵胞は採卵時には排卵済み。その影響で残った一つは黄体化。

採卵3回目(E2が高めがちだが問題があるという程でもないので、周期をあけずに採卵、過去二回と同じ刺激法で実施):CD3 LH 7.6、E2 60、FSH 11.4、AFC左に2個、右に1個、クロミッド50mg 5日間(D3~D7まで)、HMG150x3(D5、D7、D9)+セトロタイド0.25mg(D9、D10)+HCG5000単位(D10)、CD9 LH 14.9 E2 741 PROG 0.24 卵胞「左右ともに順調に育っている」としかメモしていない、CD10 LH 3.2 E2 711 PROG 0.05 卵胞メモなし、採卵数3個(G2 x 2、G3 x 1)、 受精3/3、分割3/3、凍結精子:濃度9000万/ml、運動率60% 
 4日目 12cell(G1)x2▶︎新鮮胚移植→陰性
 4日目 10cell(G2)▶︎培養中止
*新鮮胚移植後のリセット時のホルモンバランスが悪かったため、次周期はお休みになった。
リセット時のホルモン値:LH 16.5、E2 28、PROG 0.67 FSH 19.7(LH, FSHともに高い)

採卵4回目(2周期あけての採卵。前々周期:ホルモンバランスが悪かった。前周期:残留卵胞があったため、ピルを21日間服用してからの採卵周期)、クリニックの先生が言う「好きなものを食べてストレスをためずに過ごす」を実行してみる。年末年始の時期だったということもあり、生活も不規則だった:CD2 LH 3.9 E2 9 FSH 8.8 PROG 0.10、AFC左に2個、右に2個、クロミッド50mg 5日間(D4~D8まで)、FSH150x3(D6、D8、D10)、HMG150 x1(D11)+セトロタイド0.25mg(D11、D12)+HCG5000単位(D11)、CD11 LH11.4 E2 531 PROG 0.32 左の2個が15㎜〜17㎜、CD12 LH 2.6 E2 504 PROG 0.11 左の2個が20㎜程度、採卵数2個(G2 x 2)、 受精1/2、分割1/1、凍結精子:濃度?万/ml、運動率?%(結果は教えてもらっていない)
 4日目 2cell(G2)▶︎培養中止
*未受精卵がでるという過去最悪の結果。卵子の膜も薄茶色をしていたらしい(小麦粉、砂糖の摂取で糖化?)。ピルでホルモン値を整えても、中身が伴わないようだ。

採卵5回目(1周期あけてからの採卵、やったことのないフェマーラとクロミッドのみで刺激する方法を試みた):CD3 LH 7.2 E2 36 FSH 12.0、AFC左に2個、右に1個、フェマーラ5日間(D3〜D7まで)、クロミッド50mg 1日(D8の夜~D9の朝まで)+セトロタイド0.25mg(D9、D10)+ボルタレン膣錠x5錠(D11, D12, D13)、CD8 LH 6.5 E2 127 PROG 0.11 卵胞「左右ともに順調に育っている」としかメモしていない、CD10 LH 12.6 E2 364 PROG 0.11 卵胞メモなし、左の卵胞1個は小さいままなので左右1個ずつの採卵になりそうとのこと、CD11 LH 15.6 E2 690 PROG 0.34 卵胞メモなし、左右の1個共に順調に育ってる、左の小さいのは12㎜で止まっている、採卵数3個(G1 x 1、G3 x 2)、受精1/3(一つは退行卵)、分割1/1、凍結精子:濃度15406万/ml、運動率80% 
 4日目 10cell(G1)▶︎新鮮胚移植→陰性
*初めて退行卵ができた。移植した卵もギリギリG1といったレベルだったらしい。

採卵6回目(子宮鏡検査、フローラ検査をはさんだ3周期あけてからの採卵):CD1 LH 6.6 E2 12 FSH 13.1、AFC左に1個、クロミッド50mg 5日間(D3~D7)、HMG150x4(D5、D7、D9、D12)、うまく育ってないとのことで見送り
*初の採卵見送り。生理三日目の診察の時に先生が「卵胞が見えにくい」と言っていた。
   
採卵7回目(フローラ検査をはさみ、1周期休んでからの採卵):CD3 LH 5.4 E2 20 FSH 9.0、AFC左に小さいの2個、クロミッド50mg 8日間(D3~D10まで)+セトロタイド0.25mg(D13)+HCG5000単位(D13)、CD12 LH 15.9 E2 444 PROG 0.24 卵胞左14㎜、9㎜、右9㎜、CD12 LH 18.3 E2 521 PROG 0.35 卵胞左21㎜、13㎜、右9㎜、採卵数3個(G2 x 2、G3 x 1)、受精3/3、分割3/3、凍結精子:濃度15406万/ml、運動率80%
 4日目 8cell(G1)+6cell (G2)+ 5cell (G2)▶︎新鮮胚移植→陰性
*この周期も前回同様、生理三日目の時の卵胞が見えにくかったらしい。

①今までの採卵で一度しか胚盤胞に至っていませんが(1回目の採卵)、それでも「クロミッド5日間+HMG150」の刺激法が私に合っているということになるのでしょうか。2,3,6回目も同じ刺激法を取っていますが、胚盤胞にはなりませんでした。
②私の場合、生理3日目までのE2が一桁、もしくは十代前半のような低すぎる値で、なおかつ(LHx2-FSH)<1.0のスタートだと新鮮胚移植にも至らない結果(4,6回目)に終わっていますが、生理3日目までのE2、LH、FSH値は採卵結果にそこまで影響するものなのでしょうか。また、今後の採卵周期において、そこを一つの目安(特にE2値)に採卵する・しないの判断をして良いものなのでしょうか。
③ 生理3日目までのエコーで「卵胞はあるものの非常に見えにくいが(小さくぼんやりしている)、ホルモン値は悪くない」といった場合、松林先生の経験上、良い結果に結びついてないケースは多いのでしょうか。卵胞も見えるしホルモン値が悪くないから、とこのまま漫然と何度も採卵し続けることは子宮にも経済的にもダメージが大きいので避けたいと考えています。
④胚盤胞になった1回目の採卵のみ新鮮精子で受精させています。以後は全て凍結精子です。このことは3日目以降の胚の分割スピードに影響しているのでしょうか。
⑤1回目以降、採卵結果は尻下がりになっていますが、これはやはり加齢による卵子の老化による部分が大きいのでしょうか。誘発法を変えることによって、これから胚盤胞に成長するような胚を採卵することは可能でしょうか。
⑥4回目の採卵は、前周期に残留卵胞があったためピルでホルモン値を整えてから行いました。ですが、成熟卵は取れたものの、未受精卵一つと2分割の胚が一つという結果でした。ピルでホルモン値を整えても、胚の質は悪いというケースは多いのでしょうか。それとも私の場合はこの方法は向かない、というだけでしょうか。
⑤毎回のホルモン値や卵胞のコンディションは違うものなので判断は難しいとは思いますが、上記採卵結果をリプロでの初診時に持って行った場合、松林先生の提案される刺激方法とその中身をお聞かせ願えれば幸いです。

 

A 刺激法のバリエーションがありませんので、このまま同じ治療しても、同じことの繰り返しになると思います。

①④3日目までは卵子が、3日目以降は精子と卵子の関与があることが判明しています。従って、3日目は良いけれどそれ以降失速する場合には精子側の要因が強く示唆されます。胚盤胞になった初回のみが新鮮精子を用いていますので、刺激法が合う合わない以前の問題として凍結精子による悪影響が考えられます。なお(記載はありませんが)3日目の段階ですでに発育が遅いあるいはグレードが低い場合には、卵子側の要因になりますので、25OHビタミンD、テストステロン、DHEAS採血を実施して不足分を補充することで対処します。
②③⑤ 毎月調子の良し悪しは皆さんありますので、生理3日目のE2、LH、FSH値の関与はあり得ます。しかし、すぐにキャンセルするのではなく、その数値に見合った刺激を行うことが肝要です。
判で押したように一律に同じ刺激を行うのではなく、リプロではその周期のホルモンバランスや卵胞数に応じた薬剤選択をして対処しています。
⑥遺残(残留)卵胞がある時は、ピルでホルモン値を整えてから採卵に臨むと良いとの考えがありますが、必ずしも上手く行きません。カウフマン療法も同様です。大事なことは、その周期に見合った刺激を行うことです。
⑤以上述べてきたように、それぞれの周期に見合った刺激法を行うのが得策です。未来の状態を予測することはできませんので、今刺激を決めるのではなく、その都度考えることになります。しかし、多くのクリニックでは「その都度考える」というバリエーションがありません(できません)。100人いれば100通りの刺激法になってしまいますので、煩雑さから間違いが生じるリスクが生まれます。リスク回避のためには1つか2つの方法にしておくのが無難だからです。

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。