☆不妊は遺伝する? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

不妊は遺伝するのでしょうか。双子のお子さんの将来の妊孕性がどうなったか国家規模の研究をご紹介します。

 

Fertil Steril 2020; 114: 618(デンマーク)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.014

Fertil Steril 2020; 114: 514(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.036

要約:1931〜1976年にデンマークで出産した9,053組同性の双子を対象に、初回妊娠までの期間(TTP = Time To Pregnancy)についての横断研究を行いました。赤池モデルを用いて計算したところ、遺伝的要因は女児で28%男児で4%、個別の環境因子は、女児で72%男児で96%でした。

 

解説:1年間妊娠しない場合に不妊症と定義されます。現在、不妊症は9〜18%(6〜11組)の夫婦に認められますので、極めて一般的な現象です。しかし、不妊症が遺伝的な要因なのか、環境因子なのかについては明らかにされていませんでした。環境因子として、女性では肥満、喫煙、アルコール、カフェイン、ストレスの関与が、男性では肥満、喫煙、アルコール、低栄養、睡眠障害、ストレスの関与が知られています。この他に、性感染症(STD)や環境ホルモンの影響も明らかにされています。本論文は、双子のお子さんを対象に、将来の妊孕性を検討した国家規模の研究であり、遺伝的要因の関与は限定的であり、個別の環境因子の関与がメインであることを示しています。

 

コメントでは、遺伝的因子、共通の環境因子、個別の環境因子の3つに分けられますが、前2者は1卵性の双子の場合には共通ですから、不妊症のリスク因子として個別の環境因子の関与がメインであるとしています。一般的に様々な疾患の半数以上は環境因子であることが知られていますので、これは特別驚くほどの結果ではありません。むしろ、不妊症は子供時代の要因でなく、大人になってから(双子が別々の生活をするようになってから)の環境や生活習慣が重要であることを示しています。この傾向は女性よりも男性でより顕著であり、男性の遺伝的関与はわずか4%しかありません。環境因子は変えられますので、妊活に適切な生活習慣の重要性を示しています。つまり、多くの場合に不妊は遺伝ではないと言えます。