良い胚と悪い胚を移植した場合、良い方に引っ張られるのか、悪い方に引っ張られるのか、どちらでしょうか?本論文は、悪い方に引っ張られることはないことを示しています。
Fertil Steril 2020; 114: 338(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.027
Fertil Steril 2020; 114: 267(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.064
要約:2013〜2015年に、新鮮胚盤胞移植(day 5)を実施した4640周期を対象に、良好胚盤胞1個移植と良好胚盤胞+非良好胚盤胞の2個移植の妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、良好胚盤胞をAAとAB、非良好胚盤胞を(中等度胚盤胞をBAとBBとBC、不良胚盤胞をCCとCB、初期胚盤胞をBL1とBL2、桑実胚)としました。結果は下記の通り、全ての項目に有意差を認めました(1個移植<2個移植)。
新鮮胚 良好胚盤胞1個 良好胚盤胞1個+非良好胚盤胞1個
出産率 44% 50%
多胎妊娠率 1% 16%
新鮮+凍結 良好胚盤胞1個 良好胚盤胞1個+非良好胚盤胞1個
出産率 49% 56%
多胎妊娠率 1% 21%
なお、2個目の胚が良好になるにつれて、出産率(最大+27%)と多胎妊娠率(最大+12%)も増加しました(桑実胚<初期胚盤胞<不良胚盤胞<中等度胚盤胞)。また、年齢別に検討しても、全ての項目に有意差を認めました(1個移植<2個移植)。
〜37歳 良好胚盤胞1個 良好胚盤胞1個+非良好胚盤胞1個
出産率 51% 58%
多胎妊娠率 1% 19%
38歳〜 良好胚盤胞1個 良好胚盤胞1個+非良好胚盤胞1個
出産率 33% 45%
多胎妊娠率 0% 15%
解説:受精卵と子宮内膜のクロストーク(情報交換)が行われていると考えられています。良い胚と悪い胚を移植した場合、良い方に引っ張られるのか、悪い方に引っ張られるのか、心配される方が少なくありません。つまり、良い胚からは良いシグナルが出ており、悪い胚からは悪いシグナルが出ているのではないかという懸念です。本論文は、良好胚盤胞1個移植と良好胚盤胞1個+非良好胚盤胞1個移植を初めて比較検討したものであり、いかなる場合でも悪い方に引っ張られることはないことを示しています。つまり、悪い胚からは悪いシグナルは出ていないと推察されます。
コメントでは、不良胚と言われる胚でも着床し赤ちゃんなれる胚が含まれているが、1個移植では着床せず、2個胚移植でのみ着床する胚があることと、出産率と多胎妊娠率の観点から37歳までの方は良好胚盤胞1個移植が推奨されるとしています。
例えば、2個移植で2個着床し(胎嚢2個)、1個が途中で発育停止になった場合には、流産にはならず妊娠継続し出産に至ります(Vanishing twin)。このような事例からも悪い方には引っ張られないものと考えられます。