感情労働の対策:マインドフルネス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

私が加盟している心身医学会の学会誌に、興味深い記事がありましたので、ご紹介いたします。

 

心身医学 2020; 60: 296(日本)

要約:心療内科や精神科などのメンタルヘルス関連の診療科では、攻撃的、訴えの多さ、自傷行為など医療者が負担を感じる患者さんに対しても、受容や傾聴が求められます。「もうその話は聞きたきない」と思いながらも、表面上には出さずに黙って傾聴する負担感はかなりのものです。これは、サービス業や対人援助職で、暗黙の了解として要求されています。このように、感情のコントロールを伴う業務には独特の困難さがあるため、「感情労働」と呼ばれています。感情労働は、肉体労働、頭脳労働に並ぶ第三の労働と位置づけられています。感情労働の場では、顧客の感情が好ましい状態になるよう、「落ち着き」などの好ましい感情を自分の中に誘発したり、怒りなどの好ましくない感情を抑制したりする感情の管理が要求されます。例えば、客室乗務員が不愉快な乗客に優しく応対する、ファストフード店員が笑顔で接客するなどです。感情労働は、従事する方に大きな心理的負担を強いるため、バーンアウトとの関連が指摘されています。現代の医療は、心療内科に限らず他の診療科でも感情労働化が増えているように思います。そこで、今後は感情労働の観点からのバーンアウト対策が必要になります。

 

近年、心身医学では、マインドフルネスが注目されています。マインドフルネスとは、現在自分に生じていることに「善悪の判断を停止して、ただ気がついている」状態です。これが、感情労働の対策に有効です。つまり、「イライラや緊張など仕事中に感じる自分の気持ちや考えに気づいているだけ」にして、放っておきます。イライラしている自分に対して「良い」「悪い」の判断をしないことです。こうしてイライラや緊張が増幅しないようにして、自然に小さくなるのを待ちます。マインドフルネスを用いると、患者さんの怒りや執拗な訴えに対して感情的になってしまうことがなくなり、「患者さんにも色々な事情があるからまあ仕方ない」と何となく納得していきます。患者さんの話を聞く負担感はありますが、それと付き合いながら治療を続けていれば何か良い変化があるかもしれないと思って前向きに診療ができます。

 

解説:マインドフルネスは、医療従事者だけでなく、対人関係の職種(接客業など)全てに有効な手法ではないかと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2014.4.1「怒らないんですか?