動的環境での培養は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、動的環境での培養についての検討です。

 

Fertil Steril 2020; 113: 578(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.043

要約:2015〜2017年に採卵を行いPGT-Aを実施する方100名(42歳以下、AMH>=1.2、FSH<12、AFC>=8)を対象に、正常受精卵(2PN胚)を通常の静的培養群と動的培養群の2群にランダムに分け、培養成績、正常胚率、妊娠成績を前方視的に検討しました。なお、動的培養群では、1時間に5分間42Hzの振動を与えました(enMotion、NSSB-300)。また、移植は静的培養群と動的培養群からそれぞれ1個ずつ正常胚を合計2個移植しました。単胎妊娠の場合には、どちらの受精卵が着床したかについて、赤ちゃんの遺伝子解析により診断しました。正常受精卵1224個(静的培養群615個、動的培養群609個)から、胚盤胞637個(静的培養群333個、動的培養群304個)が得られました。胚盤胞率(静的培養群57.1%、動的培養群58.3%)、異常胚率(静的培養群33.3%、動的培養群20.0%)、着床率(静的培養群63.1%、動的培養群67.1%)に有意差を認めませんでした。

 

解説:ヒトの身体は寝ている時以外は常に動いていますので、動的環境での培養が良いのではないかという考えがあります。過去2件の少数例での検討では1時間に5分間42Hzの振動を与えた培養環境での培養成績と妊娠成績の向上が報告されています。本論文は、この動的環境での培養についての検討を実施したものであり、動的環境での培養は、培養成績、正常胚率、妊娠成績に変化がないことを示しています。ただし、本論文は初めてのランダム化試験であり、症例数を増やした今後の検討が待たれます。