☆葉酸は過剰も不足も良くない!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、葉酸は過剰も不足も良くないことをマウスの実験で示しています。

 

Hum Reprod 2019; 34: 851(カナダ)doi: 10.1093/humrep/dez036

要約:3週齢のCFIメスマウス(ドナー、レシピエント)は葉酸通常量(葉酸2 mg/kg)、葉酸4倍量(葉酸8 mg/kg)、葉酸10倍量(葉酸20 mg/kg)で飼育し、6週間後に体外受精を行いました。なお、B6SJLFI/Jオスマウスは葉酸4 mg/kgで飼育しました。また、対照群として自然交配で妊娠したメスマウスを用いました(葉酸通常量で飼育)。葉酸は妊娠中も継続投与し、胎児及び胎盤を検査しました。血液中及び赤血球中の葉酸濃度は、投与した葉酸の濃度依存性に増加しました。葉酸投与量による妊娠率、流産率、奇形率に有意な違いは認めませんでした。胎児発生は自然交配と葉酸4倍量で同等ですが、葉酸通常量と葉酸10倍量で胎児発生に有意な遅れが認められました。4つのインプリンティング遺伝子(Snrpn、Kcnq1ot1、Peg1、H19)のうち、体外受精の胎盤及び胎児でKcnq1ot1とH19のDNAメチル化の有意な低下を認めました。DNAメチル化低下は胚発生が遅い胚ほど顕著にみられました。DNAメチル化低下は葉酸投与量の増加に伴い男児胚と胚発生が遅い胚で有意に増加しましたが、女児胚と正常発生胚で有意な変化はありませんでした。

 

解説:妊娠中の女性の葉酸摂取により胎児の神経系の異常が予防可能であるという発見は20世紀の最大の医学生理学上の発見の一つと言われていました。葉酸摂取量は、通常の方は1日0.4mg(400μg)以上、神経系異常の経験をお持ちの方は1日4mg(4000μg)とされています。しかしその後、葉酸摂取量増加に伴う弊害がいくつか報告されており、ヒトでは葉酸1日5mg(5000μg)以上でお子さんの精神運動系の発達障害が、葉酸1日1mg(1000μg)以上でお子さんの認知機能異常が生じること、マウスでは葉酸10倍量(ヒトの葉酸1日4mgに相当)投与により、胚発生の遅延、流産、胎児奇形の増加や記憶力の低下が生じます。これまでヒトで報告された葉酸摂取量は、全て自然妊娠での検討であり、体外受精妊娠への葉酸の必要量や影響については検討されていませんでした。体外受精をされる方は葉酸摂取を心がけている方が多くおられます。このような背景の元に本論文の見当が行われ、葉酸は過剰も不足も良くないことをマウスの実験で示しています。

 

あくまでもマウスでの検討に過ぎませんので、ヒトでも同様のことが言えるかは明らかではありませんが、薬剤もサプリも用量を守ることが肝要です。葉酸は1日0.4〜1mg(400〜1000μg)です。