なぜ大阪と東京? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「リプロはなぜ大阪と東京なんですか?」結構多い質問です。外来で診療中にお答えする内容ではありませんので、ブログ記事にしました。

 

そもそも、私が不妊クリニックをやろうと考えたのはある地方都市でした。ある先生が不妊センターを立ち上げるので「センター長にならないか」という打診がありました。図面も完成し、様々な業者との打ち合わせもほぼ終わり、銀行の方と最終的な打ち合わせがありました。当初は問題なく融資可能とのことでしたが、予想される患者さんの人数と体外受精や手術の件数から収支バランスを計算したところ、融資は見送りとなりました。要するにIN/OUTバランスが病院経営として成り立たないというのが銀行側の結論でした。このIN/OUTバランスは金銭のみならず患者さんの人数が大きく関与してきます。患者さんのIN/OUTバランスは、妊娠率(卒業率)に左右されます。妊娠率は、地方にいた当時も現在のリプロと同じで、大変良好でした。妊娠率が良いとどんどん卒業して行きますので、体外受精や手術件数を維持するためには初診患者数が多いことが最も重要です。しかし、地方ではそれはなかなか難しい話でした。変な話、妊娠率が低ければ卒業しないため患者さんが定着しますので、IN/OUTバランスが成立します。妊娠率を低くして計算すれば、融資も受けられたのですが、それでは本末転倒です。そこで、現在の良好な妊娠率のままIN/OUTバランスを成立させるには「人口の多い大都市でないとできない」との結論が出ました。しかも、交通の便が良い場所に限定されます。

 

私が地方の病院を辞めてからこの先どうしようか途方にくれていた時、石川先生に出会いました。石川先生は、日本全国どこへでも出かけてTESE(精巣内精子採取術)を行なっていましたが、自分のクリニックで「夫婦で一緒に通院•治療」をコンセプトに新しいタイプの不妊クリニックを、腰を据えてやりたいと考えていました。そのようなコンセプトのクリニックは他にはなかったため、大規模にインパクトの大きな都市部、特に東京か大阪での開院を考えていました。また、ちょうど一緒に働ける婦人科医を探していたところであり、私が連絡すると、即座に「ぜひ一緒にやりましょう」となったのです。本当に幸運でした。さらに、グランフロント大阪は建設中で、半年後にオープンするという願ってもいないチャンスであり、リプロ大阪が大阪駅直結の新築のビルに誕生しました(2013年9月)。

 

リプロ大阪には、北海道から沖縄まで全国各地から数多くの患者さんが訪れるようになりました。特に、関東地方(特に東京都)からの患者さんが大変多く、都道府県別では、大阪、兵庫、京都に次ぐ人数を占めていました。東京のニーズが極めて高いことは実感としてもデータ的にも疑いようがありませんでしたので、リプロ東京のオープンは必然でした。立地条件はアクセスの良い場所となりますので、いくつかの候補の中から汐留が選ばれ、リプロ東京が誕生しました(2017年2月)。

 

現在は、東日本の方はリプロ東京へ、西日本の方はリプロ大阪へ通院しています。もちろん、それでもなお遠方であることには変わりない地域もあります。しかし、私も石川先生も一人しかいませんので、今できることを着実にこなしていくことしか私たちにはできないと思います。私がブログで毎日発信している内容は、患者さんのみならず医師、培養士、看護師、検査技師など生殖医療に携わる多くの方にご覧いただいております。その結果、全国の不妊クリニックのレベルアップに繋がることを願っています。実際に、当院のオプション検査を導入されるクリニックも増えてきているようですので、遠方の方も地元の不妊クリニックでリプロと同様な治療ができる時代が近づいていると感じています。また、私たちリプロの理念・治療方針に賛同して共に働く医師が増えてきています。チームリプロの一員になった医師たちが、様々な地域で開業することにより、患者さんにとっても通いやすい環境ができれば、という期待もしています。

 

私は、大阪、東京と経験を積み、医療においてもマーケットリサーチが重要であることを痛感しました。これは、社会では当たり前の話だと思います。しかし、現在の医学部の授業に医療経済学はありません(外国ではあります)。従って、「なぜ大阪と東京?」の答えは、なぜ企業の本社が東京あるいは大阪に集中しているかと同じ理由になります。

 

下記の記事もご覧ください。

2014.5.1「石川先生と私