☆胚盤胞は2%O2で培養した方が良い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

体外受精の世界で仕事をしている医師・培養士にとって大変衝撃的な論文が発表されました。従来の培養環境は5%O2で培養しますが、本論文は、胚盤胞は2%O2で培養した方が良いことを示しています。

 

Fertil Steril 2018; 109: 1030(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.02.119

Fertil Steril 2018; 109: 1002(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.03.011

要約:2014〜2016年に胚移植しない2PN胚62個、3PN胚141個を提供していただき、day1〜day 3を5%O2で培養し、day3〜day 5を2%O2で培養した2%群101個と、通常通りday1〜day 5を5%O2で培養した5%群102個にランダムに分け、培養成績、メタボロミクス、遺伝子発現を比較検討しました。5%群と比べ2%群で、胚発生停止は0.38倍(58.4% vs. 39.1%)に有意に低下し、胚盤胞発生率は2.55倍(22.5% vs. 40.2%)に有意に増加しました。しかし、5%群と比べ2%群で胚盤胞の細胞数は有意に少なくなっていました。また、2%群ではメタボロミクス上の有意な変化(アミノ酸代謝、抗酸化作用)を認め、TE細胞のMUC1遺伝子発現は2.1倍に有意に増加していました。

 

解説:動物の卵管の酸素濃度は5〜7%ですが、子宮内の酸素濃度はそれよりも低いことが知られており、ヒトの子宮では2%との報告があります。この低酸素状態は妊娠初期の期間も続き、妊娠12〜13週で7.9%に上昇することが知られています。また、卵管摘出標本の分析データから、胚が子宮に入るのはday 3の後半であるとの報告があります(RBM Online 2002; 4: 160)。本論文はこのような背景の元に行われたパイロットスタディーであり、 day 3以降は2%O2で培養した方が良いことを示しています。単純な話、このほうがより生理的な状態というわけです。現在、2つの大規模な多施設共同研究のRCTスタディー実施中であり、この結果によっては、現在実施されている体外培養環境が大きく変化する可能性があります。まさに、今までの常識が覆される瞬間と言えるでしょう。体外培養では胚盤胞にならない方が、体内では胚盤胞になる場合(=着床する場合)はこの酸素濃度が関与している可能性も考えられます。今後の動向に注目が必要です。