☆ホルモン補充周期の黄体ホルモン製剤:膣剤単独で流産と化学流産が増加!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ホルモン補充周期の黄体ホルモン製剤の選択で膣剤単独では流産と化学流産が増加することを示したものです。

 

Fertil Steril 2018; 109: 266(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.11.004

Fertil Steril 2018; 109: 242(イスラエル)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.12.008

要約:2009年以降に凍結したBB以上の胚盤胞で、ホルモン補充周期による融解胚移植を行う645周期を対象に、ランダムに3群に分け、異なる黄体ホルモン補充プロトコール(ABC)を実施し、妊娠成績を検討しました。なお、ABC群はブラインドであり、①50mgプロゲステロン筋注連日投与、②200mgプロゲステロン膣剤1日2回連日投与(エンドメトリン)、③200mgプロゲステロン膣剤1日2回連日投与+50mgプロゲステロン筋注3日毎に投与のいずれかになります。

 

intention-to-treat  A   B    C

移植周期数     218  217  210

妊娠判定陽性率   65%  66%  60%

化学流産率     13%  20%  33%*↑

臨床妊娠率     56%  53%  40%*↓

流産率       11%  11%  23%*↑

妊娠継続率     50%  47%  31%*↓

*A群及びB群と比較しC群に有意差あり

C群=②200mgプロゲステロン膣剤1日2回連日投与であることが判明しました。この結果が判明した時点でC群は中止とし、A群とB群については、出産率まで経過を見て優劣がないかどうかを判断します。

 

解説:ホルモン補充周期の黄体ホルモン製剤には、注射、膣剤、内服の3種類があります。内服薬は生理活性が弱いとされるため、注射あるいは膣剤が用いられるわけですが、毎日の注射は患者さんの負担が大きいため、患者さんは膣剤を選択する傾向にあります。注射と膣剤は同等の効果であるという報告があることを製薬会社はアピールされますので、世界的に膣剤を選択することが多くなっています。しかし、根拠となっているのは新鮮胚移植のデータばかりであり、凍結融解胚移植のデータは極めて少ないのが現状です。2010年に発表されたCochraneレビューでは、凍結融解胚移植で注射と膣剤を比較した論文はわずか4編しかなく、最大規模の報告でも354周期の検討に過ぎません(自己卵、初期胚)。その他の論文はドナー卵子のものであり、わずか1件のみが出産率まで検討しています。したがって、Cochraneレビューは、現在のデータからは「注射と膣剤は同等の効果である」と結論づけることはできず、もっと多くの研究が必要であるとしています。さらに、その後発表された論文では、注射と膣剤の優劣は賛否両論であり、結論が出ていません。このような背景の元に本論文の検討が行われ、膣剤は妊娠判定までは問題ないけれども、化学流産と流産が有意に多くなるために、妊娠継続率が有意に低下することを示しています。現在もなお本研究は継続しており、A群とB群については、出産率の有意差がないかどうかを確認することになります。

 

本論文の研究方法は、エビデンスレベル1bであり、極めて信頼性が高い研究あり、過去最多の前方視的検討です。本論文の統計担当者にもABC群表記でデータを渡しており、可能な限りバイアスが入らないよう注意した素晴らしい研究です。コメントでは、凍結融解胚移植における最適な黄体ホルモンの投与方法、投与量、投与頻度は不明であることを述べ、膣剤の半減期は短いため膣剤投与回数は増やした方が良いかもしれないとしています。一方、注射製剤は効果の持続時間が長いために1日1回投与で十分とし、膣剤連日+3日毎の注射により膣剤の不足分を補充できているのではないかと推察しています。当院のホルモン補充周期の黄体ホルモン製剤の投与法はまさに後者の方法であり、これまで実施してきた方法の妥当性(正当性)に納得しています。なお、本論文はホルモン補充周期の黄体ホルモン製剤の投与法についての検討であり、自然排卵周期の融解胚移植での黄体ホルモンの投与法には当てはまりませんのでご注意ください。