☆超音波所見と流産 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「流産」のリスク因子第3弾は、超音波所見と流産の関係についてです。

 

Fertil Steril 2018; 109: 130(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.09.031

Fertil Steril 2018; 109: 64(スペイン)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.10.024

要約:2005〜2014年に自己卵による体外受精で単胎妊娠が成立した1243件を対象に、妊娠初期の超音波所見と流産の関係について後方視的に検討しました。超音波は妊娠6w3dから8w0dに実施し、平均胎嚢径(GS)と頭臀長(CRL)を用いた各種パラメータにより、流産との関連が最も強いリスク因子を検討しました。GSとCRLの差「GS-CRL」を用いて評価したところ、流産率は5mm未満で43.7%、5〜10mmで15.8%、10〜15mmで9.9%、15mm以上で7.1%と有意差を認めました。しかし、GSのみの評価あるいはCRLのみの評価と比べ優位性はありませんでした。また、「GS-CRL」は、出生児体重、出生時在胎週数、妊娠合併症との有意な関連を認めませんでした。なお、平均胎嚢径(GS)は胎嚢を3次元方向で計測した平均であり、頭臀長(CRL)は3回計測した平均をとりました。

 

解説:赤ちゃんの大きさに比べて胎嚢の大きさが小さい(=「GS-CRL」が小さい)のですが大丈夫でしょうかと心配される方が少なくありません。本論文はその答えを見出しています。これまで、超音波所見と流産の関係について様々な指標がありますが、いずれも流産を予測するという精度のものは見つかっていません。1991年に「GS-CRL」が5mm未満の流産率は94%であるという論文が発表され、5mmという数値が一人歩きをした結果、冒頭の患者さんの心配につながる事態になっています。しかし、この元論文を見てみると、わずか16名での検討に過ぎません(つまり15/16=94%)。その後、これに関する大きなスタディーは全くされておりません。本論文は、この件に関する初めての大規模な検討であり、確かに「GS-CRL」が5mm未満の場合には流産率は有意に高くなるけれども43.7%であり、当初発表された数値のおよそ半分であることを示しています。つまり「GS-CRL」が5mm未満でも半分以上の方は流産にならない訳です。心配すると、子宮内の血管が収縮して胎児への血流が減少することが知られていますので、無用の心配を避けることが妊娠を成功させる秘訣にもなります。

 

コメントには、流産のリスク因子として、母体年齢、既往流産回数、父親年齢、血栓性素因、母体BMI、アルコール、タバコが掲げられています。これらの中で後3者は改善できますので可能な限り改善して、次の妊娠を目指して欲しいと思います。それにしても、たった一つの論文を鵜呑みにしてはいけないことを改めて痛感させられます。