本論文は、人工授精周期のスクラッチング効果についてのメタアナリシスです。
Fertil Steril 2018; 109: 84(イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.09.021
Fertil Steril 2018; 109: 56(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.10.016
要約:人工授精周期のスクラッチング効果について、卵巣刺激を用いたランダム化試験のみ8論文1871周期を対象にメタアナリシスを実施しました。対照群と比べスクラッチング群の臨床妊娠率は2.27倍、妊娠継続率は2.04倍と有意に高くなっていましたが、多胎妊娠率、流産率、子宮外妊娠率には有意差を認めませんでした。スクラッチングの実施時期は人工授精周期の実施で有意に高く(臨床妊娠率2.57倍、妊娠継続率2.27倍)、前周囲の実施では有効性を認めませんでした。ただし、それぞれの論文のクオリティーは低いものでした。なお、スクラッチング実施中の不快な症状はほとんどありませんでした。
解説:人工授精と体外受精にはかかる費用に大きな差があるため、ステップアップに躊躇される方も少なくありません。しかし、人工授精の妊娠率は、体外受精の1/4と低く、改善策が模索されています。体外受精の胚移植の際には、妊娠率改善策としていくつかの方法が実施されており、その中でスクラッチング法は最も簡便かつ安価な方法です。人工授精周期にスクラッチングを実施したランダム化試験はそれほど多くなく、2016年に報告されたコクランレビューでは、その有用性は否定的でした。本論文は、その後に追加されたランダム化試験を含め、卵巣刺激を用いたものに限定してメタアナリシスを実施したものであり、人工授精周期のスクラッチング実施により妊娠率改善の有効性を示しています。ただし、論文のクオリティーは低く、本当に有効であるか否かについては今後の検討が待たれます。
2015年に報告されたコクランレビューでは、体外受精(新鮮胚移植)におけるスクラッチング効果について14論文2128名を対象に検討したところ、前周期及び当該周期にスクラッチングを実施した13論文で1.34倍と有意に高い妊娠率となりました。しかし、採卵日にスクラッチングを実施した1論文では妊娠率が低下しました。しかし、この研究では内膜損傷が強いキュレットを用いたものであり、採卵日に実施したことだけがマイナスとは考えにくいとしています。なお、この報告では、論文のクオリティーは中等度となっています。一方、2016年に報告されたコクランレビューでは、タイミングあるいは人工授精におけるスクラッチング効果について9論文1512名を対象に検討したところ、芳しいものではありませんでした。なお、この報告では、論文のクオリティーは低いあるいは極めて低いとなっています。その後、4件のランダム化試験が追加され13件となりましたが、本論文は卵巣刺激を用いたものに限定し8件の論文について解析したものです。つまり、母集団をなるべく均一にして条件を絞ったわけですが、これによりスクラッチング効果の有効性が示されました。
そもそも、スクラッチング効果がなぜ生じるのかについては明らかにされておらず、1)脱落膜化を促進する可能性、2)創傷治癒の過程における免疫担当細胞の活性化、3)子宮内膜の成熟の可能性が仮説として考えられています。また、スクラッチングに使用される器具には様々な種類があり、どれが良いかについても明らかになっていません。