☆よもぎ蒸しと妊娠治療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近「よもぎ蒸しは妊娠治療に良いのでしょうか?」という質問がしばしばありますので、論文を調べてみました。

 

J Ethnopharmacol 2013; 145: 767(韓国)doi: 10.1016/j.jep.2012.12.003

要約:よもぎは古くから婦人科疾患の治療に使われてきました。よもぎによる子宮内膜細胞株11Zと12Zのアポトーシス効果について検討しました。よもぎは、時間依存性に11Z細胞のアポトーシスをきたし、 caspase 3、8、9発現を濃度依存性、時間依存性に増加させました。よもぎはp38の活性化をもたらしましたが、p38抑制剤であるSB203580投与により、よもぎによる11Z細胞のアポトーシスが消失しました。また、よもぎはNFκB活性化を抑制し、 抗アポトーシス因子であるXIAP、Bcl-2、Bcl-xL.活性化を抑制しました。すなわち、よもぎは抗子宮内膜作用を持ち、p38とNFκBを介して内膜細胞をアポトーシスに至らせることが判明しました。

 

解説:本論文が掲載された雑誌は「民族薬理学(ethnopharmacology)」といい、私たちには馴染みの薄い雑誌です。「よもぎ蒸し」は、韓国で600年以上も前から伝わる民間療法です。よもぎを中心にした数種類の漢方生薬を煮出し、薬草の成分が含まれた蒸気で下半身から体を温めます。「産後の肥立ちが良くなるように」と始められたといわれています。現在、日本でも「よもぎ蒸し」実施施設が数多く存在し、幅広く行われています。穴の開いた椅子の下でよもぎを蒸し、その椅子に座ります。専用のケープで首から下を椅子ごと覆ってサウナ状態にし、首から下をいわば「蒸す」格好になります。よもぎには、抗消炎作用、抗腫瘍作用、免疫抑制作用があることが報告されています。本論文は、よもぎによる抗子宮内膜作用(子宮内膜細胞をアポトーシスにさせること)を示しています。この作用からは、確かに産後の肥立ちの改善効果や子宮内膜症の治療効果は納得できます。しかし、子宮内膜症以外の妊娠治療に対する効果は証明できていません。

 

なお、「ヨモギパッド」は下着に貼るタイプですので、それほど腹部が高温にはならなと思いますが、「よもぎ蒸し」では首から下がサウナ状態になりますので、腹部が高温環境に暴露されます。腹部が高温になることは、妊娠を目指す方にとって、海外ではあまり良くないことと考えられています。ただし、間接的な根拠に留まっています。

 

下記の記事を参照してください。

2012.12.1「☆何月が妊娠しやすい?」
2013.7.22「☆季節により妊娠率•流産率は違うか?」
2013.8.4「☆温泉に入ってもいいですか?」
2013.8.22「☆妊娠中の気温と赤ちゃんの心疾患の関係」
2013.9.1「Q&A60 お腹を温めるのはよい?」
2013.11.23「Q&A150 お腹温めたら、、」
2014.2.25「Q&A263 FSH高値なのですが、、、」
2014.3.9「Q&A274 甲状腺機能低下、運動、気温、体調」
2014.4.28「☆妊娠初期のインフルエンザ感染の影響」
2015.3.20「Q&A637 妊娠初期の過ごし方」

2016.4.15「女性にも高温の環境はよくない?