Q&A1698 双子の出産後に弛緩出血で輸血 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q リプロダクションクリニック大阪で双子を授けていただき、36週まではとても順調に健康妊婦でしたが急に血圧が180を越えてしまい緊急帝王切開となりました。術後意識朦朧としながらお部屋に戻り、その後出血が止まらず子宮内バルーンで止血されましたが、嘔吐した時の腹圧でバルーンが勢いよく外れ、その後2リットルを超える出血となり、血圧が下がったり上がったりを繰り返しながら輸血が必要となりICUで3日間寝たきりになって、肺水腫、高血圧、貧血でその後もなかなか体が元に戻りませんでした。
子どもたちは、2500gと2800gで元気に生まれたこともあり、9日後には予定通り母子ともに退院しましたが、貧血と高血圧が1ヶ月程続き、輸血後の感染症の不安から母乳育児を躊躇し、スタートが遅れてしまい、思うように母乳がでなくて全く思ったようなお産とはなりませんでした。しかし、大切な宝物2人の元気一杯の姿を見て、今元気に生きて一緒に過ごせていることに感謝しかありません。双子は、一人は夫の赤ちゃんの頃にそっくり。もう一人は私の赤ちゃんの頃にそっくりで、遺伝子の出方にビックリしています!遺伝で動きまで似るのですね~とても面白いです。私達に、お力を貸していただきありがとうございました。私を母親にしてくださりありがとうございました。大切に命を守っていきます!

病院では、お産後ICUに運ぶことは1200件中5件くらいのものだとおっしゃっていましたが、3人目を考えたとき、夫や両親は「次また同じような思いはしたくない。絶対ダメだ!」と言います。弛緩出血は、体質にもよると聞きましたが、双子だったからなりやすかったとも聞きました。弛緩出血について、リスクや1度経験した人が次の出産時にも同じような事になる確率等が知りたいです。そして、たとえば松林先生の奥様や、娘さんがこのような状況になった場合、2人目は諦めろと言いますか。それとも、大丈夫だからチャレンジしようと言いますか。

A 産科は、経験を積めば積むほど怖い思いをする診療科です。とくに、大学病院や地域の基幹病院では、怖い場面に遭遇する確率が高くなります(他施設からの搬送があるため)。私も大学病院時代には産後ICU管理の経験も多数あります。その中では、弛緩出血は比較的軽症の部類に属すると思いますが、水道の蛇口をひねったような大量出血の怖さは言葉には表せません。

 

弛緩出血のリスク因子としては、下記のものがあります(日本産科婦人科学会誌、2007年9月、N393)。

1)子宮筋の異常
  子宮筋の過伸展(多胎、羊水過多、巨大児) 

  子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮奇形

 2)陣痛、子宮収縮の異常
  微弱陣痛、分娩遷延(母体疲労など)

  墜落産、急速遂娩術(多産婦)

  長時間の子宮収縮薬使用

  子宮収縮抑制薬の長期間使用 

3)胎盤剥離面、遺残など

  胎盤、卵膜遺残、子宮内腔凝血塊貯留

  常位胎盤早期剥離
  前置胎盤、胎盤剥離遅延、副胎盤
  膀胱、直腸の充満 

 

この中で、今回の出産に該当するのは「多胎」のみだと思います。したがって、他にリスク因子がなければ、次回妊娠でリスクが高くなることはないと思います。私の妻や娘が当事者だったとしても、安心して次の妊娠を目指すよう説明します。

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。