☆銅亜鉛と着床の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

銅亜鉛と着床に関するチームリプロの論文がacceptされ、先日下記のon line journalに掲載されましたので、ご紹介いたします。

 

BMC Research Notes 2017; 10: 387(リプロ大阪)

要約:2014〜2015年に胚移植を実施した方408名を対象に、銅亜鉛濃度と妊娠率(着床率)の関連について、後方視的に解析しました。40歳未満、3BB以上のホルモン補充周期凍結胚盤胞移植に限定し、妊娠群96名(少なくとも妊娠10週まで妊娠継続)と非妊娠群173名を比較検討しました。銅亜鉛濃度及び妊娠判定の採血は、黄体ホルモン切替え日(仮想排卵日)の16日後に行いました。2群間の年齢とBMIには有意差を認めませんでした。銅濃度は妊娠群と比べ非妊娠群で有意に高くなっていました。ROCカーブから算出した最も適切なカットオフラインは、銅濃度160未満、銅/亜鉛比1.60未満でした。銅濃度は、年齢、BMI、亜鉛、E2、P4、hCG濃度との関連は認めませんでした。

 

解説:外国で使われている銅含有の子宮内避妊具(IUD)は100%避妊効果がある一方で、日本で使用されているIUDには銅は含まれておらず、98%程度の避妊効果です。また、ウイルソン病という珍しい病気の方(1/5〜10万人)では銅が様々な臓器に沈着することが知られていますが、不妊症や不育症の合併が多いと報告されています。これらの事実から、子宮内に銅が存在すると妊娠率(着床率)低下に結びつく可能性が示唆されます。また、厚生労働省の統計から、現代の日本人の食生活では銅の摂取量が必要以上に多く(必要量0.90mg/日、摂取量0.97mg/日)、亜鉛の摂取量が必要以上に低下必要量10.0mg/日、摂取量6.5mg/日)していることが報告されています。そこで、血中の銅濃度が高い場合にも妊娠率(着床率)低下の可能性があるのではないかとの仮説の元に本論文の研究が行われました。本論文は、銅濃度が高いと妊娠率が低下することを示しています。

 

銅と亜鉛は細胞の機能に関与する微量金属です。銅/亜鉛比が増加すると、酸化ストレス、癌罹患率、妊娠高血圧症候群が増加することが報告されています。亜鉛の欠乏は日本人をはじめとした東洋人に多いことが知られています。現代の日本人は、大豆製品とインスタント食品の摂取が多くなっていますが、大豆にはフィチン酸が含まれ、亜鉛をキレート(除去)します。また、インスタント食品には多くの食品添加物が混入しており、この一部は亜鉛をキレート(除去)します(EDTA、ポリリン酸、カルボキシメチルセルロースなど)。最近発表された世界の食生活の統計から、全世界の20.5%は亜鉛欠乏症であり、特に東南アジアでは33.1%と高率です。これは、黄色人種の妊娠率が白人より低い一つの理由であるかもしれません。また、都市部と田舎で銅亜鉛の摂取量が変わるとの報告もありますので、世界各国のみならず、日本でも他の地域での検討が必要です。また、本論文のレビューアーの一人から、本論文は極めて興味深い論文であり、多くの新しい知見を生み出す基礎になるとのコメントをいただきました。大変嬉しい限りです。

 

腸内の銅と亜鉛はどちらも小腸のMetallothioneinに結合して吸収されます。そのため、腸内の濃度が高い方がより多く吸収されることになります。亜鉛のサプリメントは、腸内の亜鉛濃度を上昇させますので、結果的に血液中の亜鉛が増え銅が減ります。したがって、銅濃度が高い方には、亜鉛のサプリメントが有効です。

 

下記の記事を参照してください。

2013.11.25「銅が妊娠を妨げる効果は絶大