Q&A1550 慢性早剥羊水過少症候群(CAOS)とは | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 33歳

顕微授精6日目胚盤胞移植で妊娠し、25週3日で女児を出産しました。3回目の移植で、1度目新鮮分割胚移植と2度目凍結分割胚2個移植では全くの陰性でした。妊娠初期から原因不明の出血を繰り返し、24週で羊水過少が認められ、入院後陣痛がおこり自然分娩で超未熟児での出産となりました。病名は慢性早剥羊水過少症候群(CAOS) とのことでした。主治医に原因を訪ねたところ「自然妊娠ではないこと」「子宮腺筋症を患っていたこと」が原因ではないかと言われました。
まだ不妊治療専門のクリニックに凍結受精卵が5つ残っており、第二子第三子も考えておりました。体外受精、顕微授精が原因で慢性早剥羊水過少症になることはありえるのでしょうか。今後の妊娠で、事前に予防はできるのでしょうか。第二子以降もまた早産になったら‥と心配です。子宮腺筋症は出産後初めて言われました。程度の重いものではないとのことです。

 

A 慢性早剥羊水過少症候群(CAOS) はElliottらにより最近提唱された概念です

①前置胎盤などの明らかな出血源なく医学的に無視できない量の性器出血が持続

②当初は羊水量が正常(AFI 5~25 cm)

③明らかな破水の証拠がないにも関わらず羊水過少を併発(AFI <5 cm)

 

常位胎盤早期剥離(早剝)は、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれてしまうことで、5.9/1000の確率で生じます。従来からある通常の早剝はらせん動脈の破綻(動脈性)によりますので緊急を要しますが、CAOSでは静脈叢の破綻によるものと考えられており慢性的な経過をたどります。 

 

通常の早剝では、交通事故,転倒,外回転術など外力によって起こる場合はわかりやすいですが、内因性に起きる場合の発症機序は解明されていません。ただし、通常の早剝のリスク因子として、妊娠高血圧症候群、子宮内感染、切迫早産,前期破水,絨毛膜羊膜炎、早剝既往、妊娠中期のAFP高値、慢性高血圧、妊娠24週の子宮動脈血流波形にnotch、妊娠初期に出血、胎児発育不全、喫煙、麻薬が挙げられます。

絨毛膜下血腫(SCH)は、妊娠中の出血の原因としてしばしば認められ、決して珍しいことではありませんが、絨毛膜下血腫が長期化し血腫が増大して慢性早剥となる場合をCAOSと呼ぶイメージです。しかし、すべての絨毛膜下血腫がCAOSへ移行するわけではなく、CAOSのリスク因子は不明です。

 

通常の早剝だとしても、体外受精や顕微授精の妊娠であることも子宮腺筋症を患っていたこともリスク因子ではなく、唯一「妊娠初期から原因不明の出血を繰り返していたこと」だけがリスク因子となります(妊娠初期の出血は一般的な現象ですので、繰り返していたところがポイントです)。出血傾向の検索として、抗リン脂質抗体症候群や血液凝固因子の検査をお勧めします(CAOSにprotein S活性低下が見られた症例報告もあります)。なお、子宮腺筋症は本当にそうなのかどうか判断が難しいことが少なくありませんので、MRI撮影で判断が望ましいでしょう。