培養液により妊娠率や赤ちゃんの体重に差が出る? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、培養液により妊娠率や赤ちゃんの体重に差が出るかどうか検討したものです。

 

Hum Reprod 2016; 31: 2219(オランダ) 

要約:2010〜2012年にオランダの6つの施設で体外受精を行った836名の方をランダムに2群(HTF群419名、G5群417名)に分け、培養成績、妊娠成績、出生時体重を比較検討しました。なお、HTFはLonza Verviers社製、G5はVitrolife社製のものを用いました。HTF群と比べG5群は、1周期あたりに移植可能な胚個数(2.3個 vs. 2.8個)、新鮮胚移植での着床率(15.3% vs. 20.2%)、臨床妊娠率(40.1% vs. 40.7%)が有意に高くなっていましたが、出産率には有意差を認めませんでした。出生時体重の判明している380件(単胎300件、双胎80件)について、培養液による違いを検討したところ、HTF群と比べG5群で有意な低下(平均158g少ない)を認めました。また、単胎妊娠での早産率は、HTF群と比べG5群で有意に高く2.2% vs. 8.6%)なっていました。妊娠週数と性別で補正してもなお出生時体重はG5群で有意に低下していました。

 

解説:培養液の違いにより培養成績や妊娠成績が異なるのではないかと報告されています。しかし、いずれの研究も少数の症例でしかされておらず、大規模なランダム化試験が行われていませんでした。このため、どの培養液が良いのかあるいは悪いのかについて明確な証拠はありません。また同様に、培養液によって児の発育が異なるのではないか(妊娠中期から生後2年程度まで)との報告がありますが、これも小規模な研究です。本論文は、この点を明らかにするために、培養液により妊娠率や赤ちゃんの体重に差が出るかどうかについて、多施設共同でランダム化試験を実施したものです。たった2種類(HTFとG5)の培養液での検討ですが、培養成績、妊娠成績、出生時体重、早産率のいずれにも有意差を認めています。わずか数日間の対外培養の影響が、ここまで及ぶのは非常に驚きであるとともに、培養液の選択が重要であることを示しています。

 

体外受精の培養液は進化しています。初期の頃は各施設で自作していましたが(作る時代)、1985年Dr Quinnが開発したHTF、1998年Dr Gardnerが開発したsequential media(2 step型)が登場し、購入する時代になりました。sequential mediaのひとつがG5です。なお、本論文のグループは2015年に、HTFよりもG5で細胞周期や代謝に関する遺伝子の発現が有意に強く発現していることを報告しています。